“国民の妹”と呼ばれる歌手が韓国を代表する演技派に!IUが「おつかれさま」で示した俳優としての真価

コラム

“国民の妹”と呼ばれる歌手が韓国を代表する演技派に!IUが「おつかれさま」で示した俳優としての真価

俳優キャリアのターニングポイントとなった「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」

時代劇に初挑戦した「麗<レイ>〜花萌ゆる8人の皇子たち〜」
時代劇に初挑戦した「麗<レイ>〜花萌ゆる8人の皇子たち〜」[c]2016 Universal Studios, Barami bunda. Inc., and YG Entertainment Inc.

こうして俳優としての評価も高めたIUが次に選んだのは時代劇だった。「麗<レイ>〜花萌ゆる8人の皇子たち〜」(16)は現代から高麗時代へとタイムスリップした女性が、実在した皇子たちと深く関わりながら生きていくロマンあふれる作品。明るい現代女性だったハジンは皇室の運命を左右する高麗の貴族の娘ヘ・スとなって、主人公ワン・ソとの切ない愛によって痛みを知り成熟していく。その変化を巧みに演じて、成長を感じさせた。この現場ではワン・ソ役のイ・ジュンギの集中力の高い演技に驚かされたという。一方、イ・ジュンギは彼女を「実にすばらしい女優」と大絶賛し、「今後も女優として大きな仕事をするようになると確信しています」と語った。

俳優としての実力を世間に知らしめた「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」
俳優としての実力を世間に知らしめた「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」[c]Everett Collection / AFLO

彼の確信が正しかったことは、2018年の「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」によって証明された。IUが演じたのは、暗い過去と病気の祖母を抱えて困窮し、借金返済のために上司のドンフンを利用しようとする派遣社員のジアン。終始憂鬱な表情で周囲を敵視していたが、思いがけず彼の温かさに触れて変わり始める。ジアンの凍りついた心がほぐれていく過程、微妙な感情の揺れを見事に表現した彼女の演技に圧倒させられずにはいられない。ドンフン役のイ・ソンギュンの名演も心に沁みる感動作は、IUの演技人生で間違いなくターニングポイントとなった。これにより、それまで言われていた「俳優のIUが歌手のIUに追いつけない」という言葉を払拭した。

1,300年以上もの間生きる主人公を演じた「ホテルデルーナ~月明かりの恋人~」
1,300年以上もの間生きる主人公を演じた「ホテルデルーナ~月明かりの恋人~」[c]STUDIO DRAGON CORPORATION

人気、実力共にトップ俳優となったIUは、続いて「ホテルデルーナ〜月明かりの恋人〜」(19)に主演。あの世に行く前に死者が滞在する、幽霊のためのホテルが舞台のファンタジーロマンスで、死者でも生者でもない不思議な存在のホテル社長マンウォルに扮し、ツンデレな魅力を全開させた。トゲトゲしい態度を取りながらも、実は従業員や死者を思い、ヨ・ジング扮する支配人に心を開いて見せる笑顔が胸を衝く。また、このドラマでは毎回豪華な衣装で登場し“IUファッションショー”とも呼ばれた。その姿はため息が出るほどゴージャスで、かつての“普通”さとは無縁。脚本を手掛けたホン姉妹は「マイ・ディア・ミスター〜」で見せた深みある演技と、歌手としてステージで披露するカリスマ性がマンウォルにぴったりだったと評している。

トップ俳優たちと共に是枝裕和監督作に出演し、世界進出!

『ベイビー・ブローカー』ではソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジュヨンと共に来日も果たした
『ベイビー・ブローカー』ではソン・ガンホ、カン・ドンウォン、イ・ジュヨンと共に来日も果たした[c]Everett Collection / AFLO

「マイ・ディア・ミスター〜」は、さらにもう一つ新たなキャリアをIUにもたらした。同作を観て感銘を受けた是枝裕和監督から、『ベイビー・ブローカー』(22)のメインキャストにオファーされたのだ。望まれぬ子を出産した若い母親ソヨンと、赤ん坊の養子先を探して金を稼ぐブローカーの男2人の奇妙な旅を描いた作品で、ソン・ガンホカン・ドンウォンに引けを取らない演技を見せて、カンヌ国際映画祭のレッドカーペットを踏み、各賞を受賞した。ジアンと同じく人を信じられずに心を閉ざし、絶望と諦念を漂わせていたソヨンが、彼らと旅するうちに覗かせる柔らかな表情が愛おしい。彼女の心情の微妙な変化を自然に見せたIUの演技に釘付けにさせられる。

「おつかれさま」でムン・ソリと母娘役を演じるIU
「おつかれさま」でムン・ソリと母娘役を演じるIUNetflixシリーズ「おつかれさま」独占配信中

無敵の存在となったIUの最新作が冒頭で触れた「おつかれさま」だ。済州島で生まれたエスンが紆余曲折を経て初恋相手と結ばれ、娘クムミョンと息子を授かり、60年代から80 年代、そして現代へと時代を行き来しながら、母と娘、家族の物語が紡がれていく。「椿の花咲く頃」(19)の脚本家イム・サンチュンと「マイ・ディア・ミスター〜」の演出家キム・ウォンソク、そしてパク・ボゴムら実力派の共演者という盤石の布陣は成功の要素満点ではあるが、それでも今作がIUありきだったのは少し観ただけでわかる。苦しい日々のなかでも希望を捨てず、ひた向きに生きるエスン。彼女が全身全霊で走る姿には美しい生命力がみなぎっていて、そのシーンが目に焼き付いて離れない。若き日のエスンと成長したクムミョンを一人二役で演じ、違う時代を生きる母娘それぞれの思いを映し出したIUの演技は、もはや神がかり的と言っていい。

「おつかれさま」ではウェディングドレス姿も披露
「おつかれさま」ではウェディングドレス姿も披露Netflixシリーズ「おつかれさま」独占配信中

この間、歌手・シンガーソングライターとしても輝かしいキャリアを積み重ね、“一人大企業”とまで言われる大きな成功を収めてなお、IUの歩みは止まらない。次回作は立憲君主制の大韓民国を舞台にした「21世紀の大君夫人(原題:21세기 대군 부인)」。平民の財閥女性ヒジュと王族のイアン大君が繰り広げるロマンスが描かれるそうだ。イアン大君を演じるのは「ソンジェ背負って走れ」(24)で大ブレイクしたピョン・ウソク。「麗<レイ>~」ではハジンを裏切った恋人役でほんの短い出番を務めていた彼と、今度はどんな素敵な恋物語を見せてくれるのか、さらなるIUの変身に期待したい。

文/小田 香


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