「映画館で観ることを贅沢な体験にしてくれている」(梶原)
斉藤「映画を映画館で、それもミニシアターで観る意味、環境の良さなどはどのように捉えていますか?」
梶原「いろいろな設備や環境はシネコンには敵わないところがありますが、わざわざ映画館まで足を運んで、そこにしかないスクリーンで同じ映画をいろいろな人と一緒に観る。観終わったら街を歩いて気持ちを家に持ち帰る、みたいなことがその映画を観た特別な映画体験になっていくのだと思います。シネコンで観た映画だと、どの映画館のどのスクリーンで観たのかって覚えていないことが多いですから。
ジャック&ベティにはスクリーンに“ジャック”と“ベティ”という名前がついていて、映画を観た人はSNSなどに『ジャックで観た』『ベティで観た』などと書き込んでくれます。映画を観たことがより記憶に残っている気がしますし、それ自体がミニシアターや街の映画館で観ることを贅沢な体験にしてくれているように感じています」
斉藤「北條さんはいかがですか?」
北條「同じ映画でも劇場によって映し方や見え方が違うんですよね。それが僕自身、映画を観る時の楽しみでもあります。色味が違ったり、音の聞こえ方も違ってきます。この映写環境が好きというこだわりを持って楽しんでいる方も多いと思います。足を運ぶ街も違うし、ロビーの雰囲気も違いがあるのもミニシアターならでは。そして、観終わった後の帰り道も含めて記憶として残るのは、やはりミニシアターの楽しみ方の一つではないでしょうか」
「お客さんの層を広げていくことがいまの一番の課題」(北條)
斉藤「いまは倍速視聴が当たり前にもなっているし、なんならオチだけ調べてから行くという人もいます。映画料金が上がったことで敷居も高くなっている印象もありますよね。そういった状況のなかで、今後の課題として考えていることはありますか?」
梶原「なにからなにまで課題だらけです(笑)。映画館に足を運ぶことで、『次はこの作品を観てみよう』という一種の連鎖が起きるような取り組みは意識しています。ほかの劇場で上映している作品も含めてフライヤーを置くのもその一つ。映画館があることを地域の人に知ってもらうことも大切ですし、映画以外の動画コンテンツをみんなで楽しめる場所だと知ってもらうために、VTuberのライブビューイングイベントなども積極的に行なっています」
北條「お客さんの層を広げていくことがいまの一番の課題です。それに伴って、映画をとにかくわかりやすく伝えていくことも課題になってきていると感じています。映画を身近に感じて、足を運んでもらうことに尽きますね。狭いところで完結してしまうビジネスにならないようにという考えは常に持っています。わかりやすい映画を上映するのではなく、上映する映画をわかりやすく伝えることが大事だと思っています」
「ジャガモンド斉藤のヨケイなお世話」にてアップされている動画では、支配人たちが明かす上映作品の選定方法から、ミニシアターと“お金”の話、1980年代〜90年代にかけて若者を中心に起きた「ミニシアター・ブーム」についてまでを語り尽くす!本稿を読んでミニシアターについて興味を持った方は、ぜひとも長尺動画版もあわせて視聴してほしい。
「規模も含めて多様な作品を取り揃えるようにしている」(梶原)
そして、MOVIE WALKER PRESSでは動画撮影終了後、「たくさん喋っちゃいました!」と笑顔を見せた北條支配人と梶原支配人に追加で直撃インタビュー!2人の支配人は自分たちの劇場“らしさ”をどう考えているのか?じっくり悩みながら答えを聞かせてくれた。
——お2人がやりがいやよろこびを感じる瞬間は?
北條「『なんかすごいぞ』という新人の監督を見つけた時と、これまで見てきた監督の新作がこれまでと違う方向に向いていると感じた時に楽しさを感じます。ヒットすればうれしさも倍増するのですが、なかなかそういう作品とヒットって紐付かなくて…。でも気持ちとしてはワクワクする瞬間です」
梶原「『これはいける!』と思って選んできた作品への反応がよかった時はやっぱりうれしいです。上映後のお客さんの表情や声を聞くのが僕の楽しみの一つなのですが、直接感想を伝えてくれる方もいたりして。『上映してくれてありがとうございます』なんて声をかけられたら、うれしくてやりがいにつながります」
——ミニシアターにはそれぞれ特色があり、個性があるというお話もありましたが、お2人が思う“ユーロスペースらしさ”、“ジャック&ベティらしさ”を教えてください。
北條・梶原「難しい…(笑)」
——声が揃いましたね(笑)。お客さんから見る“らしさ”とはまた違ったお話が伺えるかなと。
北條「上映作品を選ぶうえでのバランスともつながりますが、平等性というのか公平性というのもひとつの“らしさ”ですね。ジャンルや世代にとらわれず、フラットで公平的な考え方で作品を選んでいきたいという思いがあります」
梶原「“らしさ”に直接つながるかどうかはわかりませんが…。作られた国、規模も含めて多様な作品を取り揃えるようにしています。1日10本ほどの映画を上映していますが、そこにできるだけ幅を持たせようとしています。アクションもあればホラーもあるし、ドキュメンタリーもある。多様性があるというのでしょうか。ジャック&ベティならどんなものがかかっていても不思議じゃない感じを、“らしさ”と感じて足を運んでくる方がいらっしゃったらいいなと思っています」
取材・文/タナカシノブ