【ネタバレあり】大奥を包む怨念の連鎖…『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』を考察!御水様、司祭など気になるワードも振り返り

【ネタバレあり】大奥を包む怨念の連鎖…『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』を考察!御水様、司祭など気になるワードも振り返り

大奥を焼き尽くす第二章の妖、“火鼠”

群れをなすモノノ怪である火鼠を前に、手を焼く薬売り
群れをなすモノノ怪である火鼠を前に、手を焼く薬売り[c]ツインエンジン

本作のモノノ怪として群れをなして襲いかかった「火鼠」。本来、ネズミは多くの子どもを産むことから子孫繁栄の象徴であり、福をもたらすめでたい生き物とされている。劇中でも、女中たちが持っていたネズミのお守りがモノノ怪の応急処置として一役買う場面があった。火鼠自体は中国の伝承に登場する空想上の生き物で、創作物でも火鼠をモデルにしたキャラクターは少なくない。しかし本作での火鼠は、自ら炎を発しているのではなく、自らを燃やし続けている。この、なぜ火鼠が自分自身を燃やし続けているか?というのが、本作の”理”にあたる。

火鼠が襲うのは、フキの命をねらう者、そして、フキに強烈な負の感情を持つ者すべてだ。フキを毒殺しようとした使用人やフキに嫉妬したサヨ、フキを陥れようとした勝沼&マツ、そして老中大友。劇中、フキに取り憑くシーンはあったものの、ほかの者のように殺されることはなく、火鼠がフキに想いを代弁させようとしたのか、それとも次の火鼠にしようとしたのかは定かではない。しかし、火鼠の中心となった人物を捉えた描写から鑑みるに、きっと前者だったのだろう。

支配されてきた“お世継ぎ”と、命を落とした御中臈スズ

”望まれぬ子”を授かったフキに、男たちの策略、そしてモノノ怪の手が迫る
”望まれぬ子”を授かったフキに、男たちの策略、そしてモノノ怪の手が迫る[c]ツインエンジン

火鼠の“理”の中心にいたのは、フキと同様に町人出身ながら天子の子を宿した御中臈、スズだった。老中大友が大奥で起こる世継ぎ問題を掌握し、都合の悪い御中臈が子を宿した場合に、自分から命令するのではなく「御中臈自身に“子を堕ろす”という選択をさせる」という手段で、老中の家の娘ではない御中臈が世継ぎを生むことを阻んでいた。それが今回、大奥にモノノ怪を生んだ発端、つまり”真”だ。そしてスズの、子を堕ろすという自身の選択への後悔、己への怒りが、自らを燃やし罰し続ける火鼠の正体であり、”理”であった。

フキやスズがそれぞれの父から子を堕ろすよう指示されたように、「町人出身でも、天子に見初められれば」というシンデレラストーリーは存在せず、利権によって世継ぎの誕生は支配されてきた。毒を盛ろうとした人物によると、スズに限らず、同じような状態に陥った時には毒を使って堕胎させられてきたという(毒の入った瓶の形もなかなかに不気味…)。フキの懐妊に際して大奥に現れた火鼠の子の数がすさまじいものであったことから、スズだけでなく、これまでの情念が吹き溜まって増大したと予想できるだろう。

フキとボタンの関係

町人出身ながら、天子に見初められ寵愛を一心に受けるフキ
町人出身ながら、天子に見初められ寵愛を一心に受けるフキ[c]ツインエンジン

御中臈は夜伽の最中に天子に個人的なお願いごとをしてはいけないという決まりがあるなかで、フキが天子に手紙を渡したという疑惑をかけられる場面や、火鼠によって別空間に落とされたシーンで、これまでフキと衝突してきたボタンはフキの肩を持つ。大奥にすべてを捧げた歌山を継ぐ御年寄として、風紀を乱すフキとぶつかる場面が多々あったものの、本来は大奥、そして生まれてくる子どもがなにより大切なボタン。世継ぎをめぐる父の思惑に腹を立て、父や自身が死のうとも大奥を支えられる人間はほかにもいる、と啖呵を切る姿には御年寄にふさわしい貫禄が滲んでいた。

そんなボタンの姿を見たからこそ、フキは火鼠に取り込まれることもなく、スズの想いも背負って世継ぎを産む選択ができたのかもしれない。第二章では、そんな老中大友とボタン、勝沼とマツ、良路とフキといった、大奥に関わる父と娘の関係性が描かれ、物語に大きな影響を与えるのも注目ポイントの一つだろう。

最後のモノノ怪、“蛇神”と御水様

本作でも印象的に登場した”御水様”。第三章で正体は明らかになるのか?
本作でも印象的に登場した”御水様”。第三章で正体は明らかになるのか?[c]ツインエンジン

唐傘、火鼠と来て、『火鼠』本編の最後には「蛇神」の文字。タイトルが出る前には、大きなヘビの胴体が壁を這い回るような映像が映され、同時に退魔の剣が口を閉じる金属音――つまり形、真、理のいずれかが得られた時の効果音が挿入された。このことから、早くも”形”を成していると考えられてもよさそうだ。

さて、これまでの2作で印象的に登場した「御水様」。そこには、大奥に勤める女性たちが捨てさせられた“大切なもの”のほか、自ら投身した女性たちの遺体で満ちていることが『唐傘』で明かされている。まだまだ正体がわからない御水様に近い人物として注目しておきたいのが、御水様の信仰の司祭を務める人物、溝呂木(声:津田健次郎)。『火鼠』では、本筋には大きく関わらなかった溝呂木が怪しげな動きをする様子が差し込まれたり、終盤、御水様に向けてなにか言いたげな表情を浮かべる溝呂木の姿が映しだされたりと、気になる伏線はいくつかあった。そのほか、蛇は水の使いや水神の使いと言われていることから、御水様が第三章『蛇神』で重要になってくるのは間違いないだろう。最後のモノノ怪となるであろう「蛇神」はどのように生まれたのか。”蛇”と”水”の関係性、その正体を見届けたいところ。

謎が謎を呼び、そこに心奪われる「モノノ怪」

振り返りながらも、あの描写、あのシーンはいったいなにを意味していたのかと気になるところが次々と湧き上がってくる「劇場版モノノ怪」。『唐傘』公開時に、薬売りは64人いるというとんでもない新事実が中村健治監督によって明らかにされたように、長きにわたり謎のままにされていた事柄が多いのもシリーズの魅力。

謎といえば、エンディングで映される、祠を取り囲む3本の柱に描かれている神様、その色、祠から伸びる綱の切れ方など、ぐるぐる回るだけのシーンながら考察したくなるポイントが盛りだくさんで、早くから注目が集まっていた。『唐傘』『火鼠』を繰り返し味わい尽くし、中毒性にハマりながら最終章『蛇神』への準備をしてみてはいかがだろうか。


文/タナカシノブ

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