マーティン・マクドナー監督×サーチライトの最新作『ワイルド・ホース・ナイン』が東京国際映画祭で公式上映!チリ政治の専門家が、作品の魅力を解説
第39回東京国際映画祭で11月3日、「ガラ・セレクション」部門に選出された鬼才マーティン・マクドナー監督の最新作『ワイルド・ホース・ナイン』(2027年1月29日公開)が公式上映。上映後のトークショーに、獨協大学国際教養学部言語文化学科の浦部浩之教授とウォルト・ディズニー・ジャパンの平山義成が登壇した。
マクドナー監督にとって4年ぶりの最新作で、『スリー・ビルボード』(17)と『イニシェリン島の精霊』(22)に続いてサーチライト・ピクチャーズとタッグを組んだ本作。舞台は1973年、クーデター直前のチリ。任務でイースター島を訪れたCIAエージェントのクリス(ジョン・マルコビッチ)とその相棒のリー(サム・ロックウェル)がそれぞれの過去や陰謀と格闘していく様が、ユーモラスなタッチで描かれていく。
ランテンアメリカ地域の政治学や地域研究を専門としている浦部教授は「劇中でCIAの2人はさまざまな行動をしています。これは当時の軍事政権下、あるいは軍事政権直前にクーデターが画策されるなかで実際にあった深刻な問題です」と解説。その上で「主人公もそうですが、それ以上に彼らが出会う2人の女学生が非常に印象に残りました」と、クリスが絆を深める反体制派のモニカ(マリアナ・ディ・ジローラモ)とアリシア(アイリン・サラス)について言及。
「私は民主化の半年前、1989年の8月に初めてチリに渡り、チリ大学に留学しました。そこで出会った同級生に、スウェーデンへ亡命していた方がいた。彼は高校時代に、生徒会長をやっていたというだけで軍事政権側から影響力を持った人物とみなされ、国外へと逃れる必要に迫られたのです」と振り返り、「この映画自体はフィクションだと思いますが、女性たちの直面する深刻な問題や恐怖、命の危険というものは、当時のチリの日常的な状況を描いていたと感じました」と的確な時代考証に太鼓判をおす。
さらに「チリの軍事政権を研究していて素朴に疑問に思ったのは、人はそんなに簡単に人を殺せるのか、ということでした。残酷な人権侵害の責任はどこにあるのか、という点もよく議論にあがります」と続ける浦部教授。あらためてモニカとアリシアの顛末に触れながら、「多くの葛藤と変化があり、あっという間に人は人を殺す人間になる。それが軍事政権側でなく民主化や学生運動に関わる側で描かれているところが非常に印象的。当時のチリでは誰もが誰を信じていいかわからない状況で、これは人間の問題かもしれない。その点が私自身のチリでの生活と重なった部分でした」と語った。
一方、日本配給を務めるウォルト・ディズニー・ジャパンの平山は、「もともとこの作品をつくる15年ほど前に、マクドナー監督はイースター島に行ったそうです。それは漠然と、この場所が将来の創作のヒントになるのではということからだったそうで、最初は2人の俳優の男という設定で考えていたとのことでした」と、本作の生まれた経緯について説明。その後、マクドナー監督が少年時代に聴いていたザ・クラッシュというバンドの「ワシントンの銃弾」という楽曲をきっかけに本作が組み立てられていったのだとか。
シリアスな時代を描いた作品ではあるが、上映中には観客席のいたるところから笑い声があがっていたようで、「この映画はコメディとして作られているので、そのような反応があってうれしかったです」と平山も安堵の表情。さらに2回目の鑑賞をする際の注目ポイントとして、「劇中に『大義のためには汚い仕事も必要になる』という言葉が2度出てきますが、1回目と2回目ではその意味が微妙に変わっています。これが、この映画の単純な善悪を超えた一つの深いポイントだと考えております」と挙げていた。
そして浦部教授は「イースター島も一度行ったことがありますが、非常に美しい場所。美しい風景と暗い歴史の両方が本作では描かれている」と、あらためて本作の魅力をアピール。「当時はイースター島まで飛行機で数時間かかり、本土との時差も2時間。そんな場所にまで危険が及んでいたというのを感じることができました」と述べ、「(2度目の鑑賞の際には)2人の女性の表情や行動の変化、なにを考えていたのかを想像すると、また違う見方ができるのではないかと思います」と呼びかけた。
文/久保田 和馬

