『DIGGER/ディガー』で来日したアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督と『国宝』李相日監督が考える、映画作家として“世界”を描くこと「映画は言語化できない領域にこそ触れられる」
「プロダクションデザインや撮影、役者たちの演技の温度感も含めて、すべてが唯一無二のバランスに到達している」(李)
李「入れ子構造の形式は、企画の初期段階からあったのでしょうか?」
イニャリトゥ「いいえ。そうなったのは企画を立ち上げてから7年後です。最初はもっと直接的な風刺映画でした。しかし、その後の7年間で世界はあまりにも急激に変化しました。地球温暖化や環境破壊のスピードは加速し、グリーンランドの氷床融解は“最後の審判”とも呼べるような危機に瀕しています。切羽詰まった現実が私たちの背中を押してきたんです。その結果、当初風刺として描いていたはずのものが、ほとんどドキュメンタリーのようになってしまった。だから現在進行形の出来事に追われるのではなく、それを振り返ることもできるような、時空を超えた構造に変えました」
李「長い射程で問題を見据える距離感が必要だったんですね」
イニャリトゥ「おっしゃる通りです」
李「人間の滑稽さに笑う一方で、その恐ろしさに身震いもしました。しかも最近、この映画で描かれたようなことが実際にネパールでも起きましたよね。本作ではトムが演じる石油採掘会社のCEOであるディガー・ロックウェルが、利益を優先して現場の警告を無視し、石油やメタンガスの採掘を強行します。その結果、気候変動と採掘の衝撃によって巨大な氷河が崩壊し、世界規模の制御不能な大災害を引き起こす引き金となります。そして現実世界でも8月下旬にネパールと中国・チベットの国境沿い地域において、実際に地球温暖化の影響による氷河の崩壊が発生しました。この崩壊に伴って大規模な土石流と大洪水が発生し、多くの人命が失われ、広範囲にわたる破壊をもたらすという気候災害が現実のものとなっています」
イニャリトゥ「恐ろしいですし、悲しくもあります。映画のシチュエーションに酷似した大惨事がリアルタイムで本当に起きてしまった。現実の変化するスピードが速すぎるんです。結果的に『DIGGER/ディガー』は大げさなフィクションではなく、いままさに目の前で起きている現実の危機をそのまま預言した映画になってしまった。かつて私は北極圏に二度行き、科学者たちとも仕事をしました。10年前、彼らは詳細なデータに基づき、『いずれこうしたことが起きる。猶予は30年ほどだろう』と語っていました。ところが10年後のいま、彼らが30年後に起こると予測していたことの多くが、すでに現実になっている。今回の映画でリズ・アーメッドが演じるガネシュ博士の台詞も、すべて科学的な事実に基づいています。扱っている内容は非常に深刻です。だからこそ、ユーモアが必要だったのです」
イニャリトゥ「ええ、風刺は本当に難しい。作品のトーンを見つけるという意味では、今回がこれまでで最も大変でした。笑いの要素に偏りすぎて、一線を越えるとテレビのバラエティ番組のようになってしまう。不条理に寄りすぎるとユーモアが失われてしまう。非常に細い綱の上を歩くような作業でした。しかも風刺というもの自体が刺激的で、人を居心地悪くさせる力を持っていますから」
李「その繊細なトーンは、プロダクションデザインや撮影にも大きく影響していると思いますし、役者たちの演技の温度感も含めて、すべてが唯一無二のバランスに到達していると感じました」
イニャリトゥ「ありがとうございます。それは最高の褒め言葉です」
