永野が観た『本当にあった話(の話)』は観客を刺激し続ける“変な映画”「『ドパガキ the movie』ってタイトルのほうがいい!(笑)」

永野が観た『本当にあった話(の話)』は観客を刺激し続ける“変な映画”「『ドパガキ the movie』ってタイトルのほうがいい!(笑)」

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「ちょっとズレてるような人たちが、そのまま出てくる感じが“怖い”」

永野いわくキャラクターたちは「全員変だし、誰もいい人がいない」
永野いわくキャラクターたちは「全員変だし、誰もいい人がいない」撮影/興梠真穂

――武井監督の作家性については、永野さんはどのような印象を持たれましたか?

永野「監督の思想とか性癖がダダ漏れしてるような映画で、なんか頼もしかったですね。(キャストもスタッフも)みんな、よく付き合ったなと思うんですけど(笑)。それってつまり、『付き合ってやってもいい』と思えるくらい『おもしろい』ってことじゃないですか。この監督は、自分が撮りたいものをちゃんと撮ってるんだろうなというのが伝わってくる」

――確かに。余すことなく出しきった感がありますよね。

永野「はい。こういったインタビューの場では、武井監督も『夛田はこういう人間で…』とか、俯瞰的な感じで語るかもしれないですけど、僕は勝手に、主人公の夛田って、武井監督自身の中にある人格なんだろうなって思って観てましたね。そこまで冷静な映画じゃないというか。監督が自分のやりたいことを、そのまま出している感じがするんですよ。あと僕、最初まんまとこのタイトルにつられて、『自分が知らないだけで、本当にあった話をもとにしてる映画なんだ…!』って思いながら観てたんですよ。綺麗に騙されました(笑)。『本当にあった話(の話)』という題材を使って、『な?俺ってすごいだろ?』っていうのを、監督が自分の細胞レベルで出したかった感じが伝わってきたのが、個人的にめちゃくちゃよかったです」

演じる役そのものになってしまった夛田の妄想が暴走!
演じる役そのものになってしまった夛田の妄想が暴走![c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

――監督が、作品に自分自身を乗せて観客にぶつけてくる感じでしょうか。

永野「はい。この映画って、もちろん言いたいことは明確にあるとは思うんですが、『伝えたいメッセージ』みたいなものは、そんなにないような気がしていて…。いい意味で、ものすごく自分勝手というか。最近の映画って悪人を描く時とかも『この人にもこういう正義があるんですよ』とか、全部ちゃんと説明するじゃないですか。でも、この映画は、そういう感じじゃないんですよね。『この人、変な人だな』で終わる。いまの世の中の基準で見たら、ちょっとズレてるように感じるアップデートされてない人たちが、言い訳せず、そのまま出てくる感じが“怖い”につながっているような気がするんです」

――確かに、そうかもしれません。

永野「昔の映画って、もっとそういうのが許されてた気がするんですよ。『なんでこんなことするの?』っていう人が、悪役として特別に描かれるわけでもなく、普通に『そういう人』としていたりする。で、最後になぜかみんなと一緒になってワーワーやって終わる、みたいな(笑)。『あれ?お前、途中、結構悪かったよね?』っていう。あのユルさが懐かしくて、僕は昔の映画をよく観ているのかなと思うことがあります」

演出家の権力を使って米良を家に誘う加藤
演出家の権力を使って米良を家に誘う加藤[c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

「ずっと変な違和感を観客に与え続けてくれるのがこの映画の特徴」


――永野さんは最近、ジャッキー・チェンの映画ばかりご覧になってるそうですね。

永野「ジャッキーはもうショック療法で、なんか現代(の映画)がきつすぎて現実逃避で観ているんです(笑)。もちろんジャッキーも大好きですけど、昔の映画って、いまだったら『これはどういう意味なんだ』とか『この人にもこういう事情があって…』とか、いちいち説明しないじゃないですか。だからと言って、昔のほうがユルくてよかったと言いたいわけではないんですよ。いまの世の中がアップデートされていくこと自体はいいと思うんですけど、感動させるとか、なにかメッセージを訴えるとかじゃなくて、観客の興味をずっと惹き続ける映画を撮るのって、本当に難しいと思うんですよね」

脚本家の垣内を「疑似フェミニスト!」とののしる夛田
脚本家の垣内を「疑似フェミニスト!」とののしる夛田[c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

――表現においても、昔と比べるとはるかにいろいろな規制があるなかで、観客の予想を最後まで裏切り続けなければ飽きられてしまう、といったハードルの高さがあると。

永野「はい。その点で言うと、この映画って、ずっと刺激があるじゃないですか。『ええ…?』って、ずっとビックリする。いい意味で、ずっと変な違和感を観客に与え続けてくれる。そこがこの映画の特徴なんじゃないかなと思います」

――いまはTikTokのような短い尺の映像も溢れていて、絶大な人気を集めています。

永野「そうなんですよ!だから僕、強いて言うならこの映画のタイトルも、『ドパガキ the movie』のほうがいいんじゃないですか?って思うんです(笑)。“刺激物映画”ですよね。“ドパガキ”っていうタイトルにつられて観た人たちが、『全然違うじゃん!』って言いつつも、『でも、なんかちょっとわかる(笑)』みたいな映画なので。ほかの映画でそういう宣伝をやられたら『金返せ!』ってなるけど、この映画なら“なんでもアリ”が許される気がするんですよ」

武井佑吏監督を絶賛する永野
武井佑吏監督を絶賛する永野撮影/興梠真穂

――最後に、武井監督の次回作には、永野さんとしてはどんな映画を期待しますか?

永野「これだけ人の嫌なところを細かく描ける人だから、逆に日本人の機微を活かした“いい話”も撮れるんじゃないかなと思います。意外と“紡ぐ”ような話も撮れる気がしていて」

――なるほど…。この感じを“反転”させればいいと。

「そう。反転させるだけで真逆の映画になるから。僕、歳を取ったせいもあると思いますけど、今は仲間とか、人の体温とか、そういうものにすごく興味があるんですよね。アキ・カウリスマキの映画みたいに、なにも起きないけど、すごくほっこりする映画とか。この監督がそういうものを撮ったら、おもしろいんじゃないかなと思います」


取材・文/渡邊玲子


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