飛び散る鮮血に宙を舞う生首…最新作『八つ墓村』へ連なる「金田一耕助」シリーズのホラー的演出
推理作家、横溝正史の「金田一耕助」シリーズを新たに映画化した『八つ墓村』(公開中)。同名の原作小説には、主人公の出生の秘密、ラブロマンス、宝探し、情報のデマによる集団パニックなど様々な要素が内在。一方で、「八つ墓村」という名前の由来にまつわる落武者殺しと、その呪いを受けた田治見家の当主、要蔵が引き起こした大量殺戮事件といった怪奇要素もあり、本作の監督で世界的なJホラーの旗手、清水崇も特にホラーの部分にフォーカスを当てている。数々の映画化で知られる横溝正史作品だが、そこには少なからずホラーの要素がはらんでいて、そこが作品の魅力にもなっていた。横溝映画とホラーとのかかわりを歴史的に振り返ってみたい。
不穏さを際立たせた片岡千恵蔵版、そこから派生したモンスターホラーの色合いも
横溝正史の小説を映画化したものには、時代小説「人形佐七捕物帖」を若山富三郎主演で映像化したシリーズ(1956~61年)や、姉と弟の禁断の愛を耽美的に描いた『蔵の中』(81)、金田一耕助と並ぶ横溝正史が創造した名探偵、由利麟太郎が活躍する『蝶々失踪事件』(47)があるが、その中心的な作品は、やはり事件の謎解きとロマンあふれる人間ドラマを融合させた「金田一耕助」シリーズだ。
金田一耕助ものは最初、片岡千恵蔵主演で「本陣殺人事件」を原作とする『三本指の男』(47)から『三つ首塔』(56)まで7本が作られた。このシリーズでは第1作に片岡千恵蔵が二役で、事件の鍵を握る三本指の男を奇怪なメイクで演じたり、大ヒットした第2作『獄門島』(49)では殺戮が起こる夜を猛烈な嵐の日にして不穏な空気を醸し出したりと、直接的なホラー描写というより、怖さを予見させるスリラー的な描写が目立つ。原作と犯人を変更したこともあったため、ミステリーとしてはかなり強引な展開の作品も多いが、歪んだ人間関係が引き起こす連続殺人を、ローカル色豊かに映しだした娯楽作として見応えがあった。
この片岡千恵蔵版を基本イメージとして、岡譲二が金田一を演じた『毒蛇島奇談 女王蜂』(52)が大映で、河津清三郎が金田一に扮した『幽霊男』(54)と池部良が金田一役の『吸血蛾』(56)が東宝で作られた。『幽霊男』には白い包帯で顔を覆った幽霊男が、『吸血蛾』では奇病“狼つき”の男が犯行を冒す作品で、ある種のモンスターホラーの色合いを持っている。特に怪談映画の巨匠、中川信夫監督による『吸血蛾』は、影を効果的に使った斬新な画面処理を含めて、異色のスリラー映画に仕上がっていた。
片岡千恵蔵の路線を引き継いだ、高倉健主演による東映の『悪魔の手毬唄』(61)を最後に、金田一耕助映画は休眠期に入る。それは推理小説が松本清張に代表される社会性を持った論理的な謎解きに主眼を置く、リアルなミステリーに人気が移ったからだった。
