『オデュッセイア』クリストファー・ノーラン流の解釈を考察!主人公、オデュッセウスは本当に英雄と呼ぶにふさわしいのか?

『オデュッセイア』クリストファー・ノーラン流の解釈を考察!主人公、オデュッセウスは本当に英雄と呼ぶにふさわしいのか?

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果たして次はどんな世界を見せてくれるのか?いま、そんな期待を抱かせる監督はクリストファー・ノーランくらいだろう。しかも彼はそういう想いを裏切ったことがないという、まさに映画界のミラクルメーカー。『オッペンハイマー』(23)でアカデミー賞監督になって以来、初めてになるこの『オデュッセイア』(公開中)も世界中で大ヒットを更新し、そのミラクルは続いている。

『オデュッセイア』は古代ギリシャの詩人、ホメロスが遺した冒険叙事詩を映画化したもの。ホメロスの作品には10年に及ぶトロイア戦争を語った「イーリアス」、ギリシャ軍を勝利に導いた知将、イタケの王・オデュッセウスの故郷に帰るまでの10年間を描く「オデュッセイア」があり、ノーランが選んだのは後者、長い旅の代名詞にもなった英雄譚であり冒険譚だった。

が、冒頭に流れるテロップで、原作に親しみがある者は少々驚かされる。「一見、夢のような時代の話」とあるからだ。これはなにを意味しているのか? 

なぜオデュッセウスはマット・デイモンなのか?

主人公オデュッセウスを演じたマット・デイモン
主人公オデュッセウスを演じたマット・デイモン[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS

ノーランの『オデュッセイア』は、私たちが原作で知っているそれとは大きく違っていた。英雄譚でもなければ、ある意味、神話的でもない。ノーランが常にこだわる“リアル”。それをこの誰もが知る物語に持ち込んだエピックドラマ。“ホメロスの『オデュッセイア』”ではなく、“ノーランの『オデュッセイア』”になっていると言っていい。ということはつまり、冒頭のテロップは、神や魔女やモンスターが存在する神話的、魔術や予言がまかり通る世界を、現実との境界線があやふやな“夢”という感覚で描いているというノーランなりのエクスキューズだったと解釈できる。

キャスティングが発表された時、オデュッセウスにマット・デイモンというのは、原作ファンからすると「ちょっと違う」だった。かつて映画でオデュッセウスを演じていたのは、カーク・ダグラスだ。1954年製作の映画『ユリシーズ』(ユリシーズはオデュッセウスのラテン語名の英語読み)の彼はまさに英雄らしく頼もしい王で、その印象が強烈だったからかもしれないが、もっとがたいのいいパワフルな俳優がよかったのではないかと思っていた。

が、物語が進むうちにデイモンを選んだ理由が見えてくる。ノーランはオデュッセウスを英雄として描こうとはしなかった。一緒に故郷を目指す部下たちから崇められるどころか反感を買われ、彼らのほうも命令に背いてばかり。いや、原作もそういうところは多々あるのだが、デイモンが演じることでより英雄部分が削ぎ落されていく、という効果が生まれている。考えてみればオデュッセウスは、自分だけが故郷の土を踏み、部下を全員失ったのだから…というところに、リアリストのノーランは目をつけたのかもしれない。「本当に英雄と呼んでいいのか?」ということだ。


 炎に包まれるトロイア。合戦中のオデュッセウスの姿はどう描かれている?
炎に包まれるトロイア。合戦中のオデュッセウスの姿はどう描かれている?[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS

では、ノーランの創造したオデュッセウスはどんなの人物なのか?彼を待ちわびる妻ペネロペ(アン・ハサウェイ)が授かる予言、「海からやって来る男が世界を滅ぼす」がいい当てているように、新しい価値観をもった男として描かれる。自分が仕掛けた木馬によるトロイアの陥落を悲しみをたたえた目で見つめ、ギリシャ軍に蹂躙される人々から目を背けるような男。炎に包まれ、阿鼻叫喚の地獄絵を繰り広げるトロイアの首都イーリオス(前日譚となる「イーリアス」はここから取られている)の描写をアクションシーンとしてではなく、オデッセウスの痛み、彼の価値観を変えたに違いない忌まわしい記憶として表現したことで、その変化と想いが伝わってくる。しかもノーランは、そんな世界を呆然と見つめるオデュッセウスに「また過ちを繰り返すだろう」と言わせている。そう、いまの時代と重ね合わせてもいるのだ。神話が現代も読み継がれているひとつの理由が浮かび上がって来るではないか。

故郷イタケでは王妃を巡った争いも…。オデュッセウスの妻ペネロペをアン・ハサウェイが演じる
故郷イタケでは王妃を巡った争いも…。オデュッセウスの妻ペネロペをアン・ハサウェイが演じる[c] 2026 UNIVERSAL STUDIOS
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