中野量太監督「最後まで考え抜くことができた」早瀬憩「本当に貴重な経験」『私はあなたを知らない、』で向き合った“家族”と“赦し”
「息の長い、唯一無二の俳優に」(早瀬)
――話題作への出演を重ねている、早瀬さん。本作は早瀬さんにとってどのようなチャレンジができた作品になりましたか。
早瀬「今回は役としても、自分にとって大きなチャレンジでした。朝子を演じることになって脚本を読んだ時、“いまの自分の力量では演じきれない”と思ったくらい、本当に難しい役で。だからこそ頑張れたというか、乗り越えてやろうという想いもあって。朝子という役を演じられて、朝子として生きられたこと。この作品と、中野監督に出会えたこと。撮影期間中、みんなでいい作品を作ろうと走り抜けた時間も、そのすべてが私の糧になっています。本当に貴重な経験をさせていただいたと感じています」
――難しいと感じるほど、挑戦したいという気持ちが湧いてくるのですね。
中野「早瀬さんは悩みながら、考えながら、その役をつかみに行こうとしている。“これでいいや”ということが、きっと許せないんだと思います。ずっと悩んでいますからね。そんなことはない?」
早瀬「そうだと思います(笑)。でもいまのお話を聞いていて、“それは監督のほうが当てはまるな”と思いました。妥協が一切、ないですから。撮影中、監督には“もっと行ける”と背中を押していただき、100パーセントではなく、120パーセントの力を出せるような環境を作ってくださいました。だからこそ私も途中で逃げ出さず、わからないことをわからないままにせず、作品や役と向き合い続けることができました。監督が私を信じて寄り添ってくださる姿勢に、すごく助けられていました」
――『違国日記』の舞台挨拶のなかで、新垣結衣さんへ宛てた手紙で「そのままの自分でお芝居を続けていきます」とお話しされていたことも印象的です。早瀬さんがいま目指す俳優像とは、どのようなものでしょうか。
早瀬「お芝居に対する考え方やモチベーションは、このお仕事を始めたころから変わっていません。やっぱりお芝居が大好きで、演じることがとても楽しいので、息の長い俳優になれたらいいなと思っています。そして唯一無二でありたいなと思っています」
中野「早瀬さんは決して器用なタイプではないと思うんですが、いい意味で、不器用なままでいてほしいなと感じています。芝居って慣れてしまうと、器用にできてしまうものでもあって。それが必要な時もあるかも知れませんが、苦しいけれど、探究することを諦めず、そこから役を作り出していけるというのは、早瀬さんの武器だと思っています」
――中野監督にとっても、新たなチャレンジが詰まった作品となりました。
中野「自分の中では、一段階ステップアップできたという実感があります。人を殺めるという行為に真正面から向き合うことは、脚本を書き始めた段階から本当に苦しい作業でした。途中でプロデューサーに『人を殺さない映画にしませんか』と相談したほどです。それくらい難しいテーマだったからこそ、考え抜いて作品を作り上げました。最後まで考え抜くことができた。その経験自体が、自分にとっては大きな前進だったと感じています。
“家族とは?”、そして“赦しとは?”という問いは、答えの出るものではありません。僕がやらなければいけなかったのは、夕平と朝子にとっての家族や赦しとは、どのようなものなのかを追求していくことでした。夕平を赦すべきなのかという大袈裟なことを言うつもりは、まったくありません。残された人は、どのように生きていくのか。夕平と朝子の人生は、これから先も続いていくんだということを感じていただけたらうれしいです」
取材・文/成田おり枝

