中野量太監督「最後まで考え抜くことができた」早瀬憩「本当に貴重な経験」『私はあなたを知らない、』で向き合った“家族”と“赦し”

中野量太監督「最後まで考え抜くことができた」早瀬憩「本当に貴重な経験」『私はあなたを知らない、』で向き合った“家族”と“赦し”

「“朝子を演じたい”という想いが強かった」(早瀬)

――早瀬さんは今回、オーディションで朝子役に抜てきされました。朝子は、母を奪った男性と対峙し、心が揺れていくというとても難しい役どころです。オーディションにはどのような意気込みで臨みましたか。

13年前、朝子には父親のような人がいた…。幼少期の朝子を、倉田瑛茉が演じる
13年前、朝子には父親のような人がいた…。幼少期の朝子を、倉田瑛茉が演じる[c]IDKYPs./Pyramide Productions

早瀬「中野監督の過去作も観ていて、いつかご一緒させていただきたいと思っていました。オーディションは何度か回数を重ね、中野監督が実際に撮影現場にいるように演出をつけてくださったんです。その期待に応えたいという気持ちで演じるなか、オーディションを重ねるごとに“朝子を演じたい”という想いが強くなって。朝子の性格が自分に近い部分があることに気づいたり、いつの間にか感情移入していることも多く、朝子のことをもっと理解したいという気持ちも膨らんでいました。だからこそ合格の報せをいただいた時には、とても安心しました」

中野「朝子という役は、夕平と対峙する面会室のシーンを演じられるかどうかだと思っていたので、オーディションでも面会室のシーンを演じていただきました。朝子って、本当に難しい役だと思うんです。オーディションを進めるなか、早瀬さんからは“なんとしてもこの役をつかみ取りたい、この役に近づきたい”という想いがあふれていて。とてもいいなと思いました。僕は、映画の世界観に馴染む人が好きなんですが、早瀬さんはその雰囲気もしっかりと持っている。ぜひこの役は、早瀬さんにお任せしたいなと思いました」

――そうやって突き進んでいく力は、事件の真相に向かっていく朝子とも重なるように感じます。早瀬さんは、朝子を演じるうえでどのようなことを大切にしていましたか。

朝子は、母が殺された事件の真相を確かめようと当時の弁護士を訪ねる
朝子は、母が殺された事件の真相を確かめようと当時の弁護士を訪ねる[c]IDKYPs./Pyramide Productions

早瀬「一言で表すのはとても難しいですが、素直でまっすぐで純粋なところが、朝子のステキなところだと思っています。朝子は、過去に家族のように過ごしていた夕平という男性がいたことを知り、彼のことを調べながら、どんどんのめり込んでいく。そういった探究心や突き進むまっすぐな姿勢は、朝子らしさだと感じています。一方で朝子は両親、そして祖母も亡くしているので、彼女が抱えている孤独も大切にしたいなと思っていました」

中野「撮影が進むごとに、僕は早瀬さんが朝子にしか見えなくなっていました。脇目も振らず、のめり込んでいくところに一瞬、狂気まで垣間見えて。夕平との面会シーンは5回あるんですが、次第に朝子の心と表情に変化が見えていく過程を見事に演じてくれました。最初に感じた、“役をつかみにいく感覚が鋭い人だ”という直感は間違っていなかった。信じた甲斐があったなと思いました」

「坂口さんならば、夕平の繊細さや寂しさを体現してくれる」(中野監督)

――面会室のシーンでは、次第に夕平と朝子の表情に変化が生まれていきます。夕平を演じる坂口健太郎さんのお芝居から、引き出されたと感じることはありますか?

刑務所に収監されている夕平と対峙する朝子
刑務所に収監されている夕平と対峙する朝子[c]IDKYPs./Pyramide Productions

早瀬「本当にたくさんあります。面会室のシーンは、台本を読んだだけでは想像しきれず、やってみないとわからないという不安もありました。でも実際に撮影に挑んでみると、過去に愛してくれていたこと、そしていまも変わらずに愛を持って接してくれていることなど、夕平の発する言葉や表情の節々に朝子への愛情が感じられて。台本を読んだ時には想像もできなかった感情を、引き出してくれました。坂口さんに、とても感謝しています」

中野「一度、坂口さんも早瀬さんもお互いから出てくるものを受け止めすぎてしまって、感情があふれ出てしまったことがありました。それくらい、2人とも面会室のシーンにかけてくれていました。そのシーンはお二人の感情が出過ぎてしまったことから『もう1回』とお願いしたんです。実は、監督だって『もう1回』と言うのはイヤなものなんですよ(苦笑)。『OK』と言ってしまえれば、楽ですから。でもキャスト、スタッフのみんなが“もっといいものが出る”と信じられる現場だったので、気持ちよく進められました。坂口さんと早瀬さんも、『もう1回』とお願いすると『どうしたらいいか』と一緒に考えてくれるお二人です。だからこそ僕は“どうしてほしいのか”ということを、なるべく言葉にしてお伝えできたらと思っていました」

坂口健太郎が、家族という幸せの形を追い求め、 破滅へと向かっていく主人公の西山夕平を演じた
坂口健太郎が、家族という幸せの形を追い求め、 破滅へと向かっていく主人公の西山夕平を演じた[c]IDKYPs./Pyramide Productions

――中野監督は、人を殺めるという行為に向き合うことは「ずっと逃げてきたこと」とお話されています。その行為を背負ってくれる人として、坂口さんを抜てきしたのはどのような理由からでしょうか。

中野「夕平は孤独に生きていて、愛が足りなくて、愛がほしくて、愛に囚われて、その結果として罪を犯してしまいます。坂口さんならば、そういった夕平の繊細さや寂しさを体現してくれると思っていました。ご本人は、ものすごく明るい方なんですよ。でも彼からはどこか寂しさのようなものが垣間見えるし、それを夕平にしっかりと注いでくれました」

――夕平が涙する場面も多いですが、坂口さんは直前までリラックスして過ごされているそうですね。


早瀬「そうなんです。今回、初共演させていただいたんですが、坂口さんのイメージが変わりました。とてもユーモアにあふれた方で、現場では自然と坂口さんの周りに人が集まるし、自然と周りの人を笑顔にしてしまう。すごい力を持った方です」

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