恐竜映画にベトナム戦争をぶち込むとこうなる!単なるトンデモ映画に収まらない『プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争』が描くジャンルの進化
大胆な発想を一本の映画として成立させたリアリズム
そのうえ『プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争』を特殊なものにしているのは、「ベトナム戦争映画」の戦場的なリアリズムを導入している点にある。本作では『プライベート・ライアン』(98)の軍事指導で知られるデイル・ダイが脚本段階から監修を務め、撮影には元アメリカ海兵隊員が軍事顧問として参加。兵士たちの装備や部隊行動、そして交戦の手順に至るまで丁寧な裏付けが施され、密林を進軍する一個小隊の緊張感が全編を貫いている。なにより監督のルーク・スパークが目指したのは「恐竜が登場する戦争映画」であり、そうしたねらいは画面の隅々にまで行き渡っている。
こうした徹底したこだわりが、恐竜たちへ圧倒的な実在感を与えているといえるだろう。兵士たちは風に揺れる草木や遠くの物音にも神経を尖らせながら密林を進み、観客もまた彼らと同じ視界、同じ恐怖を共有する。どこから襲われるのかわからない極度の緊張が途切れることなく持続し、「もしベトナム戦争中に恐竜が存在したなら」という大胆な発想を有しながらも、一本の戦争映画として驚くほどのリアリティを確保している。
恐竜映画を撮ることを諦めなかった監督の情熱
とはいえ、ベトナム戦争と巨大クリーチャーを結び付けた作品としては、『キングコング:髑髏島の巨神』(17)こそが先駆といえるだろう。もっとも、同作が戦争の記憶を怪獣映画へ重ね合わせた作品だとすれば、この『プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争』が目指したのは、ベトナム戦争映画そのものの映画文法を恐竜映画へ移植することにあったといえる。兵士たちの隊形や索敵、密林での緊張感といった同ジャンルのリアリズムが、恐竜たちの存在に確かな説得力を与えているところに、本作ならではの独創性がある。
スパーク監督の映画作りにも、その姿勢は貫かれている。企画をハリウッドへ持ち込んだ際、「君はスピルバーグではないのだから恐竜映画は作れない」と告げられた彼は、自ら監督、脚本、製作、編集、プロダクションデザインまで兼任し、自社スタジオを拠点に作品を完成させた。つまり映画そのものが、一人の作家による挑戦の記録ともいえる。巨大資本とは異なる場所から恐竜映画へ挑み、その情熱を一本の映画として結実させた執念には、素直に拍手を送りたい。
また、そんな作品の画面から伝わる熱量は、1970〜80年代のジャンル映画への深い敬意から生まれている。『地獄の黙示録』(79)や『プラトーン』(86)が築いた密林戦の緊張感、『エイリアン2』(86)や『プレデター』(87)が完成させた一個小隊対クリーチャーという構図、そして『ジュラシック・パーク』が到達した恐竜映画の映像表現。それらを引用のみならず、自身固有の作品として昇華させ、新たな一本へ組み上げているところに本作の価値がある。
『プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争』は恐竜映画というジャンルが、なおも豊かな可能性を秘めていることを鮮やかに示した作品だ。約一世紀にわたって受け継がれてきた恐竜映画の歴史に、ベトナム戦争映画のリアリティを重ね合わせたことで、成熟したジャンルに新しい表情が生まれた。発想が変われば、ジャンルも変わる。そのことを映画史に刻み込んだ点にこそ、本作の最大の意義を見て取るべきだろう。
文/尾崎一男
