ゾワゾワではなくワクワクするホラー!?『インビジブルハーフ』をホラー作家・背筋も参加するユニット「バミューダ3」が語る
「小説では限界がきてしまうような問題も、映画では容易く突破できる」(背筋)
――ところで、背筋さんは文字で、佐藤さんはゲームで恐怖を表現されていますが、文字による恐怖とゲームでの恐怖、映画や映像で見せていく恐怖をどのように捉えられていますか?
背筋「映画は小説と違って、関わる人数が段違いに多いですよね。小説では1つの言葉で解決できることが、映画だと1日、2日、1週間もかかったりする。だから“大変だな~”とも思うけれど、違う側面では“総合芸術”という見方ができる。小説では限界がきてしまうような問題も、脚本や音楽、カメラワークや光の当て方などの総力を結集して1つの作品を作る映画では容易く突破できるから、表現できる幅が確実に大きいような気がします。ただ、それは小説が映画よりもダメという優劣の話ではなくて。小説は文字という記号の連なりだけで表現する分、読む方々に余白を委ねることができる。みなさんの各々の物語にしてもらえるよさがあるし、そこが映画と小説の大きな違いなのかなと思っています」
佐藤「ゲームが小説や映画と決定的に違うのはインタラクションで成り立っていて、プレイヤーに操作を渡してしまうところ。それがあるからホラーゲームを作るのは大変で、ここで驚いてほしいのにプレイヤーがそのタイミングで来てくれないとか、いろいろな難題があるんです。でも、作り手がコントロールできないところが逆にホラーゲームのおもしろさだなとも思っていて。制作者が仕掛けたギミックからユーザーたちがこちらの想像していない怖さをどんどん見つけ出して、ユーザーの数だけ恐怖のバリエーションが増えていくのが魅力でもあるんですよ」
――みなさんがそもそも“怖いもの”に惹かれて、それを表現しようとするのはなぜですか?
背筋「わからないですね。それが理由です。たぶん、それがわかったら怖い小説を書いてないような気がします。すごく哲学的な話ですけど、わからないから、書いているんだと思いますね」
佐藤「私は単純に不思議なことが好きで、奇跡を見てみたいからなんですけど、そう思った時に一番身近にあったのがホラーというジャンルだったんです。神様を見ることも宇宙人に会うことも簡単にはできない。だけど、ホラーというジャンルのなかではその時に感じるであろう自分の未知の感覚を味わって、活性化させることが出来ますからね(笑)」
西山「僕は怖いものは実は苦手で。苦手だからこそ、さっきもお話したように、恐怖を乗り越える瞬間にカタルシスを感じるホラーが好きなんです。そのなかで描かれる登場人物の成長みたいなものにグッと惹かれたりもするから、その要素は自分の映画にも入れたいといつも思っているんです」
――話は変わりますが、背筋さんの同名小説を清水崇監督が映画化した『口に関するアンケート』もちょうど現在公開中なので、ご覧になった感想をお聞きしたいです。
佐藤「私は度肝を抜かれました。なんだろう? 原作ももちろん読んでいますけど、清水崇監督のパンク魂を見たような気がして。『近畿地方のある場所について』の時の背筋さんと白石晃士監督のシナジーもすごく楽しかったけれど、清水監督との今回のシナジーもまたこちらの予想を遥かに超えた斜め上のおもしろさで。想像しているものよりもぶっ飛んだ映画になっていました(笑)」
西山「僕も原作を拝読してから観たんですけど、もちろん怖かったです。しかも、清水さんの近年の例えば『犬鳴村』を始めたとした“恐怖の村”シリーズや『あのコはだぁれ?』などのラインとはまた違う世界観になっていて…」
佐藤「なんか、清水監督の初期の雰囲気を感じるよね」
西山「そう。そんなJホラーの原点的な表現もありながら、すごく新しい俳優陣がキャスティングされているし、背筋さんの作品自体の新しさもあるから、その新旧のかけ算で未知の恐怖に変換されている。それに、蝉の鳴き声とかがいい意味でイヤ~な感じで(笑)。映画館から出てきた時に蝉の鳴き声が聞こえてきたら最悪だな~と。それって表現としては最高におもしろいから、めちゃくちゃいいなって感心している自分もいて。僕が監督したドラマにも出演してくれた綱啓永さんも出ているので、そこも楽しみだったんですけど、キャストのみなさんのお芝居もすごく魅力的で。寄りの画が多いので、ある種の演劇を観ているような感覚にもなりました」
佐藤「確かに、前衛的な演劇みたいなところもあったね」
背筋「私はもともと清水監督のファンだったので、こんなふうに仕上げていただけたんだという喜びがまずありました。小説をただなぞるのではなく、ご自身の世界観のなかに原作の要素を取り込んで、清水崇監督らしさみたいなものが随所に感じられる作品にしていただけたのがすごくうれしかったんです」
――具体的な映像表現でうまいなと思ったところや、こう来たか!?っと唸ったり、驚かされたりしたところもありましたか?
背筋「先ほどの『インビジブルハーフ』の話とも重なるんですけど、細かい表現がどうこうではなく、奇妙な空気感で作品全体を構築していますよね。“なにかがおかしくなってきている”と思うようなことをたぶん意図的にされている。しかもそれを作劇ではなく、第四の壁(現実世界とは違う概念上の目に見えない壁)を突破してくるような壊れ方を随所に散りばめる形でされていたから驚きました。小説では文字の色や大きさを変えることで表現していた“歪み”を空気感で再現していただいていて、これこそが映像の力のなせる技だとも思いましたね」
――最後に、みなさんがリスペクトしている一番怖かったホラー映画を1本ずつ教えてください。
西山「(瞬時に)僕はスペイン映画の『REC/レック』。1作目です」
背筋「え~、ズルっ!」
西山「えっ、なんで?」
背筋「いや、あれはおもしろいから」
西山「本当にいいんですよ、あれ。めちゃくちゃ怖い、あの話。ヤバ過ぎる!」
背筋「私もそれにしとこうかな(笑)」
西山「『REC/レック』は作品全体を通して怖いんだけど、僕は後半の、屋根裏部屋に行ってからがけっこう衝撃で。暗くてマジで何も見えない暗闇の映像のなかにあの女の人の顔がずっと映っていて…」
背筋「でも、あれってジャンプスケアじゃない?」
西山「そうなんだけど(笑)。リバイバルの時に映画館であのシーンを観て、マジで帰りたいと思ったから。それぐらい耐えられなかったし、嫌だった。映画館から本当に帰りたいと思った唯一のホラー映画なんです」
背筋「リスペクトとはちょっと違うかもしれないけれど、私が本当に帰りたいと思ったホラー映画は『ゴーストランドの惨劇』かな」
西山「ああ!」
背筋「『マーターズ』のパスカル・ロジェ監督が撮ったあの作品は本当に途中で帰りたいと思った」
佐藤「『マーターズ』が一番嫌だけど、フレンチホラーは描写が最悪だからね」
背筋「そう、フレンチホラーの嫌な部分がすべて入っていたから我慢の限界だったんですよ」
佐藤「私がリスペクトしているのは『死霊のはらわた』と『死霊のはらわたII』。サム・ライミは私が一番愛してやまない監督なので(と言いながらサム・ライミの名刺を見せて)、いつかまたお会いできることを願いお守り代わりに持ち歩いているんですよ(笑)」
文/イソガイマサト
