王道ラブストーリーを反転させた怪作!爆発的ヒットを記録中の“ヤンデレ”ホラー『オブセッション 災愛』を読み解く
全世界での興行収入が4億ドル(約648億円)を突破し、製作費100万ドル未満の低予算映画として史上最高の興行収入を記録した『オブセッション 災愛』(公開中)。YouTuber出身の新鋭カリー・バーカーがメガホンをとる本作は、好きな女性の心を手に入れようと、まじないに手を出した青年を襲う狂気と恐怖をスリルたっぷりに描きだす。そんな本作を、「恋愛映画」「ホラー映画」「監督の手腕」という面から読み解いてみよう。
「意中の相手に愛されたい…」些細な願いが狂気を生みだす
本作のあらすじはいたってシンプル。物語の主人公は、いつもは友だちとして接している女性のニッキー(インディ・ナヴァレッテ)に恋心を募らせる、楽器店の店員ベア(マイケル・ジョンストン)。酒を飲んだ帰り、ニッキーを家まで送り届けたベアは、あと一歩のところで勇気が出せず、ニッキーに思いを伝えるチャンスを逃してしまう。意気消沈するベアの目に飛び込んできたのは、偶然手に入れた「1つだけ願いを叶えてくれる」おまじないグッズ“ワン・ウィッシュ・ウィロー(願いの柳)”。それを使った途端、たちまちニッキーは自分のことを世界中の誰よりも愛してくれるように。かくしてベアはニッキーとの幸せな日々を手に入れたかのように思われたが…。
恋愛映画のお決まりパターンの真逆へ
ニッキーの愛はどんどん膨れ上がり、しだいに常軌を逸していく…というよりも、もはやレベルMAXの“ヤンデレ”へとエスカレートしていくことが最大の見どころだ。その過程の一つ一つが怖いのだが、普通の恋愛物語で重要なことをすっ飛ばしているどころか「恋愛物語の王道的な展開の真逆」になっていることに気付かされる。
例えば、恋愛物語の王道の始まり方には「一目惚れや運命の出会い」がある。しかし、ベアとニッキーは物語の開始時点で友だち同士。そんな2人がある日を境にラブラブ状態になるからこそ、事情を一切知らない周囲からは「いきなり付き合いだしてておかしくない?」と疑問を持たれることとなる。
ほかにも、いい意味でやきもきする、お互いの言葉足らずやタイミングの悪さに起因する「すれ違い」。恋愛物語の王道中の王道の展開だが、本作は「あなたのことが世界で一番好き!」が貫かれているので、もはやすれ違いが起こりようもない…いや、その一方的な愛情の“過剰さ”のせいで、結果的にはすれ違っていると言えるかもしれない。さらには、恋愛物語の最大の盛り上がりどころであり、クライマックスに置かれることも多い「告白や恋の成就」。しかし、本作では序盤も序盤から、おまじないグッズのおかげであっさりと告白も恋の成就もできている状態なのだ。
そもそも恋愛とは“自由意志”によるものだからこそ素晴らしく、観ている側もキュンキュンできるわけだが、本作ではその意志がおまじないグッズのパワーに“強制”または“支配”されているので、キュンキュンしようがないのだ。本作はそうしたところで、普通の恋愛物語の魅力を、相対的に映しだしていると言えるのかもしれない。
2人の“愛”の邪魔をする恋のライバルも登場
一方で、恋愛物語の王道展開の一つである「恋のライバル」が本作には用意されていたりもする。それが、ベアに密かに好意を寄せる同僚のサラ(メーガン・ローレス)だ。彼女は働きながら大学進学を目指しており、ベアはそんな彼女を心から応援している。サラもまた、ベアとニッキーの不自然な関係を心配する善良な人である。彼女の存在によって、王道の恋愛物語に発展しそうに見えるのだが…やはりというべきか、ヤンデレへの道を突き進んでいるニッキーから浮気を疑われる相手となる。それでもベアをおかしな状況から救いだそうと行動を起こすサラ。しかしそれが仇となり、ついにニッキーの魔の手が彼女へと忍び寄り…。その後に訪れる目をつぶりたくなるほどの恐怖は、ぜひ本編を観て確認していただきたい。
