板垣李光人の親しみやすさが一変…『口に関するアンケート』で見せる精練された表現とホラー的なインパクト
目をみはるほどの快進撃と演技の幅
ここまでざっと代表作を振り返ってきたが、役柄の幅が広がった板垣の快進撃には目をみはるものがある。江戸時代の作家、滝沢馬琴の創作過程とその作品内の活劇を交錯させて描く『八犬伝』(24)では、八犬士の一人である女装の復讐者、犬坂毛野役に持ち前の美貌でなりきり、華麗な剣術バトルを炸裂。芥川賞作家、金原ひとみの同名小説を杉咲花の主演で映画化した『ミーツ・ザ・ワールド』(25)では、新宿歌舞伎町で生きる心優しい既婚のNo.1ホスト役を黒ネイルと少しふわふわした佇まいで体現している。
さらに、吉沢亮と共演した『ババンババンバンバンパイア』(24)では、18歳童貞の血を求めるバンパイア(吉沢)からアンビバレントな情愛を寄せられる15歳の男子高校生、李仁を好演。そのピュアすぎるキャラクターがなんら違和感なくハマっていたことも鮮烈だった。
2025年放送のドラマ「秘密〜THE TOP SECRET〜」では、死者の生前の記憶を映像で蘇らせる科学警察研究所の法医第九研究室“第九”の室長役に、静かな存在感と類い稀なる記憶力、洞察力を印象づける研ぎ澄まされた芝居で作り上げ、W主演の中島裕翔扮する親友の“秘密”に迫った時の複雑な表情で観る者の心を鷲づかみに。さらに、NHKの朝ドラ「ばけばけ」では、没落した士族の三男、雨清水三之丞の苦悩と葛藤を痩せこけた顔と汚れた手で伝えていたのも記憶に新しい。
新境地に挑んだ初主演作『口に関するアンケート』
そんな板垣の最新作『口に関するアンケート』では、精度を増したナチュラルな芝居とテクニカルなアプローチからなるすべての表現が高濃度で注ぎ込まれている。それだけでなく、冷たさや孤独を感じさせながらも真面目に生きる役柄を演じることが多かった彼のイメージが一新されていて目が離せないのだ。
肝試し当日の様子を追想する映像の合間合間に、綱啓永らが演じた親友たちと同じように板垣扮する翔太の証言映像が挿入されるのだが、その表情が少しずつ変化していくことに注目してほしい。片目の下だけが痙攣したかと思えば、涙目になったり、顔自体に歪みも出てきたりして、普段は見せない人間のドロドロした内面があふれだす。それと共に、彼が話していることは本当のことなのか?嘘をついているのではないか?と真偽がしだいにわからなくなってくるし、それこそ自分の意思ではなく、“なにか”に言わされているのかもしれないという疑念まで湧いてくる。しかも、それによって何気ない仕草や表情も違った見え方をするのだから恐ろしい。
翔太が語る生々しい証言に翻弄され、その先に待ち受ける衝撃の結末では思わず背筋が凍りついてしまう。「えっ、板垣李光人ってこんなことまでやるの?」という驚きに支配されることになるだろう。
文/イソガイマサト
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記
