板垣李光人の親しみやすさが一変…『口に関するアンケート』で見せる精練された表現とホラー的なインパクト
累計43万部を突破した小説家、背筋の同名小説を『呪怨』(00)や『犬鳴村』(20)、『あのコはだぁれ?』(24)などで知られるJホラーの旗手、清水崇監督が映画化した『口に関するアンケート』(公開中)。意表を突いた手のひらサイズの装丁、登場人物6人の独白だけで綴られたわずか60ページの原作を、味わいと世界観はそのままに映画オリジナルのシーンを追加して視覚に訴える“恐怖”に変換させた本作。深夜、大学生たちが心霊スポットとして知られる墓地で肝試しを行うが、次の日、そのうちの1人が忽然と姿を消して…。
いったいなにが起きたのか?おぞましい恐怖の真相が関係者それぞれの告白する“証言”によって炙りだされ、キャスト陣の生っぽい芝居が観る者の心をザワつかせる。なかでも本作が実写映画単独初主演となる板垣李光人が大学生の一人、翔太に扮し、親しみやすいいつものキャラとは違う、驚愕の演技を見せている。そこで本コラムでは、板垣がこれまでの作品で放ってきた多彩な表現を振り返りながら、最新作で挑んだ彼の新たなる境地に迫っていく。
美しさと繊細さでパブリックイメージを定着
2012年に俳優デビューした板垣の存在を多くの人に知らしめた作品といえば、同名の人気コミックを実写化した『約束のネバーランド』(20)なのは間違いないだろう。楽園のような孤児院グレイス=フィールドハウスが舞台の同作で彼が演じたのは、主演の浜辺美波扮するエマと共に孤児院の恐ろしい秘密を知ることになる少年ノーマン。流れるような白髪にカラコンというビジュアル、天才的な頭脳を持つどこか物憂げなキャラはピッタリで、板垣をこの作品で初めて見た人たちの間で「あの美しい少年は誰?」と話題になり、彼のパブリックイメージを定着させるほどの衝撃だった。
そんな板垣のイメージがそのまま投影されたのが、若き日の安倍晴明(山崎賢人)を描く『陰陽師0』(24)で演じた村上天皇だ。絶対的な権力を持ちながらも、御簾(みす)の中で生活することを強いられた帝の孤独を、持ち前の気品とあえてゆっくりとした所作やまばたきなどで表現。『口に関するアンケート』の芝居は、この時の繊細なアプローチの延長線にあるものかもしれない。
天才特有の殺気、コミカルな演技も披露
「美しさ」「冷徹」「孤独」。板垣を語る際にはそうしたワードが常に提示されるが、そのすべてを最も強烈な形で印象づけたのが『ブルーピリオド』(24)で演じた高橋世田介だ。人気コミックが原作の本作は、美術大学を目指す高校生たちの熱き日々と葛藤を描いた青春ムービー。眞栄田郷敦が扮した主人公の矢口八虎が情熱で突き進むキャラなのに対し、板垣が演じた世田介は周りに誰も寄せつけない天才特有の冷たさと殺気を感じさせていた。その違いは絵を描く時のスタイルや眼差し、のめり込み方にも表れていて、イラストが特技という板垣自身の才能も垣間見られる。全身で体現した天才だけが知り得る圧倒的な孤独と時折見せる笑顔が、作品に深みを与えていたのも印象的だった。
そんな板垣のフィルモグラフィのなかでもとりわけ異質なのが『はたらく細胞』(24)。やはり同名人気コミックを「テルマエ・ロマエ」や「翔んで埼玉」シリーズの武内英樹監督が実写化し、人間の体内で日夜奮闘し続ける細胞たちの生き様が描かれる。板垣は阿部サダヲ演じる酒にタバコ、脂っぽい食事など不摂生極まりない生活を送る男性の体内で誕生した新米の赤血球役で登場。先輩赤血球(加藤諒)とコンビを組み、超絶ブラックな体内環境に翻弄されながら必死に働く姿をコミカルな芝居を交えて演じ切っていた。地獄のような日々に心が何度も折れそうになり、それでも健気に頑張る姿がチャーミングで、爆笑しながら応援したものだ。
