本木雅弘が30年ぶりのフォトブックに込めた旧友との邂逅と人間の儚さ「素直な自分を預けることができる」
昨年12月に還暦を迎えた俳優、本木雅弘のフォトブック「awai 刹那と永遠のまにまに」が6月12日に発売された。その刊行を記念した写真展「"awai" Masahiro Motoki × Kazuhiro Nakamura Photo Exhibition」が東京・渋谷の「NONLECTURE books/arts」にて6月21日(日)まで開催されるのに合わせて、本木と撮影を務めた写真家、中村一弘の在廊によるメディア内覧会、大勢のファンが駆け付けたトークイベントが実施。30年来の友人でもある本木&中村が語るフォトブックのこだわり、2人の関係性についてお届けする。
「awai 刹那と永遠のまにまに」の撮影は本木が還暦の誕生日を迎える前後の4か月、6月19日(金)公開の『黒牢城』の制作の合間を縫って行われた。京都での映画撮影オフタイムの様子、還暦当日に東京の自宅で朝を迎えた姿、ロンドンでの独り時間など、中村が30年ぶりに撮り下ろした本木のプライベートな写真の数々を収録している。さらに、銀座でゲリラ的に撮影された趣向を凝らしたカット、かつて本木と中村が友人たちと旅行したインドの風景も堪能することができる。
フォトブックのコンセプトについて本木は、「この写真集のおもしろいところは、還暦を迎えた私をただ見せることではなく、ある“人生の旅”における現在地を示すことです。それは誰しもが訪れる場所であり、皆さんにも通じるものを感じてほしい」と説明。続けて、「中村さんが撮る風景写真が好きなんです。ただ美しいのではなく、ウエットで重たく、人間の儚さ、憂いを感じさせてくれるんです。例えば、ロンドンのハイド・パークに冬の期間だけ出現するウィンターワンダーランドという遊園地では、観覧車に乗って撮影したのですが、人生は幻、そんな瞬間が撮れた気がしています」と語り、中村の写真に惹かれる理由、お気に入りの1枚についても明かしてくれた。
中村は1993年に本木が責任編集として発表したアートビジュアルブック「HILL HEAVEN 天空静座」の撮影をした写真家でもある。同作には本木、中村を含む友人数名がインドを旅した模様が収められており、2人が共作するのはこの時以来。「しばらく会っていない期間があったのですが、本木さんが京都で撮影することになった際に久しぶりに会う約束をしました。ちょうどお互い還暦を迎えるタイミングだったので、写真を撮らせてほしいとお願いしたのが始まりですね」と制作の経緯について振り返る。
被写体としての本木の魅力についても触れる。「掴みどころがありそうで掴めない。俳優“本木雅弘”としては厳しい空気があり距離を感じる瞬間もあるのですが、仕事以外での“内田雅弘”というあまり外には見せていない部分もあり、『この人、温かい』と思わせてくれます。そんなところを写したいと思いました」。
これに呼応して本木は、「そのわりにはどうしても気取っちゃいますね。現物よりよく写りたいという欲もあります。ただ、中村さんとは同世代ということもあり、いい意味でかっこつけようがないんです。2人とも、どことなく生きているうえで纏う寂しさを感じながら、ものづくりをしています。素直な自分を預けることができる関係性で、たとえ頻繫に会っていなくてもそのことを再認識できました」とほほえむ。2人の関係がいかに特別であるかが伝わってきた。
前述の通り、今回のフォトブックは『黒牢城』の撮影にも密着している。中には本木が演じた荒木村重の装いのまま写ったカットもあるのだが、切り替えは難しくなかったのだろうか?「基本的には役は外していますね。でも、黒沢(清)監督からのオファーで生やしている髭は一応リアルなんですよ。そういう物理的に役が残っているけど、気分としては自分自身でいる状態は面白いですよね。今回のテーマに、演じる“本木雅弘”と実人生を生きる“内田雅弘”、その境界線で揺らいでいるものを写すということもあったんです」と振り返る本木。外見は荒木村重だけど気持ちとしては“本木雅弘”で“内田雅弘”、そのギャップを探るのも面白い。
「『黒牢城』の撮影には一度、半日ほどお邪魔しました」と続ける中村。京都で撮影したカットで印象的なものについては、「襖絵の前で本木さんが寝そべっている写真が面白いですね。目線がきていない、遠くを見ている感じがいいです」と説明する。
最後に、「awai 刹那と永遠のまにまに」の制作を通して本木と中村がそれぞれに感じたことを紹介したい。中村にとって今回の撮影は、「久しぶりに4ヶ月もの間、一人の人間を撮り続けました。改めて写真ってこんなに面白いんだってことに気づき、仕事に執着していた鎧が外れた感覚でした。本木さんとだから、2人の関係だからできたことでもあり、遊びながら撮っていた若い頃が蘇ってきました。やっぱり楽しく仕事するほうがいいので、この感覚は今後も大切にしていきたいですね」とし、実りのある時間だったようだ。
この言葉を受けた本木にとっても中村との関係は感慨深いものがあるよう。「中村さんは辛抱強く人と付き合える方だと思いました。一過性のものではなく、じっくり時間をかけて人間を追う。映像ならドキュメンタリーが合っているかもしれません。元々、『awai 刹那と永遠のまにまに』は記念のポートレートでも残そうというイメージからスタートし、撮影を続けるうちに楽しくなって生まれたものになります。同じ人間が30年の時を超えて、同じ人間を撮るということに、ほかの人にはできないものが生まれるかも?という期待もありました。共に時間を過ごした中村さんの目に写った景色が、大勢の方の心の琴線に触れるといいですね」。
トークイベントはイラストレーターのエドツワキも観覧しており、実は本木、中村と共にインドを旅した仲間だったことから、飛び入りでステージに上がる場面も。これらの模様は後日、J-WAVE podcastにて配信される予定。「awai 刹那と永遠のまにまに」と開催中の写真展「"awai" Masahiro Motoki × Kazuhiro Nakamura Photo Exhibition」、そしてまもなく劇場公開される『黒牢城』とともにチェックしてほしい。写真家、中村一弘が捉えた俳優、本木雅弘の過去と現在、そして“これから”も感じ取ることができるはずだ。
取材・文/平尾嘉浩
