『悲情城市』から『返校』、そして『霧のごとく』へ…白色テロを描いてきた台湾映画の変遷
『君の心に刻んだ名前』などが映す、民主化時代の青春
台湾映画には、白色テロの時代以外にも、その時々の社会の空気をうまく背景に落とし込んだ良作が多い。そんななかから、民主化の途上でもがく若者たちを描いた青春映画を2本ご紹介。どちらも日本の配信サービスで見ることができる。
『君の心に刻んだ名前』(20)は、38年間におよぶ戒厳令が解除された直後の1987年から物語が始まる。世の中が開放的な空気に包まれ、主人公の阿漢(アハン)とバーディが通う高校も男女共学になり、髪を伸ばすことも許された。しかし、権威的で抑圧的な学校教育や人の意識は簡単に変わるものではない。自身が同性愛者であることを自覚した阿漢は、当時の状況では口が裂けても言葉にできなかったバーディへの愛に苦しむ。
『青春の反抗』(23)もまた、戒厳令の解除後も続いた社会的抑圧と、自由のために闘う若者たちの青春を描いた作品だ。舞台は戒厳令の解除から7年後の1994年。芸術大学の学生・季微(チーウェイ)は、表現の自由を訴えるストライキに加わる。学生運動が熱を帯びるなか、季微と学生運動のリーダー阿光(クァン)、そしてその恋人・魏青(チン)の複雑な三角関係が展開する。民主化が進む一方、同性愛への偏見がなお根強く残っていた時代の空気を映し出していく点で『君の心に刻んだ名前』と共通している。
過去を振り返ることで、どう未来に向かうべきかヒントが見えてくる。台湾には、そうした問いを投げかける映画を生んできた土壌がある。
当事者ではない世代だからこそ、負の歴史と客観的に向き合い、「あの時、なにが起きていたのか」を見つめ、分析し、未来に活かせるのかもしれない。『霧のごとく』は、70年前の悲劇を描きながら、希望に満ちた未来を夢見させてくれる奇跡的な1本だ。
文/新田理恵
作品情報へ
