ベルリンが絶賛した感動作『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』キム・ヘヨン監督が語る、傷ついた心を溶かす処方箋
「心についた傷に必要な薬は“慰め”なのかもしれない」
そんななか、物語に絶妙なユーモアと安心感をもたらすのが、地元の薬剤師ドンウクだ。監督が彼に託したのは、“理想的な大人”の姿。「何かを強いるのではなく、ただ静かに見守りながら待ってくれること。時には少し子どもっぽい冗談やいたずらを言いながらも、人を笑わせてくれること。それは『笑うことを忘れないでほしい』という応援のようなものだと思います」と語る。
「ドンウクを演じたソン・ソックさんは、とても思慮深く、ユーモアがあり、愉快な俳優です。準備期間には入念に役作りをしてくれますし、非常に積極的。現場では若い俳優たちともすぐに打ち解け、イ・レさんとの相性も抜群でした」。特に驚いたのは、事前の徹底した準備に基づきながら、現場ではまるで即興のように見せる“ライブ感のある演技”でした」。
実は、薬剤師のエピソードには、監督自身の極めて個人的な思い出が反映されている。脚本執筆中、体調を崩して通った薬局で、親切な薬剤師に癒やされた経験から、「もしかしたら心についた傷に必要な薬は“慰め”なのかもしれない」と気づいたという。さらにそこには、幼い頃の父との記憶も重なっている。難病を患っていた父のおつかいで薬局に通っていた監督は、大きくなってからその「薬」がビタミン剤だったと知った。「父はこれを飲んで、まるで魔法の薬のように、病気がすっかり治ってしまえばいいと願っていたのかもしれません」。その思いが、劇中でドンウクがイニョンにビタミン剤を渡すシーンにつながっている。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫!本当は10回くらい繰り返したかったのです」
ソウルの芸術団を舞台に、華やかな伝統舞踊が随所を彩る。だが、本作において舞踊は、単なる視覚的な見せ場にはとどまらない。監督は「舞台の上の公演も、どこか競争社会の縮図のように感じられました」と語る。「ステージで美しい踊りを披露するために、厳しく大変な準備を重ね、その困難を乗り越えていく過程。それらすべてが、人の感情の喜びや悲しみ、怒りや楽しさといった『喜怒哀楽』に重なるように思えたのです」。
舞踊の演出には、徹底したリアリズムを貫き、準備期間には実際の舞踊芸術団を訪ねて稽古や生活を丁寧に観察。映画の冒頭で披露される「六鼓舞(ユッコム)」などの伝統的な演目の一方で、終盤ではコンテンポラリーダンスをワンピース姿で踊るという大胆な挑戦も試みた。「変化と自由な動き、大人の世代と若い世代の調和、そして楽しさという感情を表現したいと考えました」。
こうした繊細な積み重ねが、ベルリン国際映画祭での快挙へと繋がった。最優秀作品賞を受賞した「Generation Kplus」は、子どもを題材にした映画を対象とした部門で、審査員も子どもたちが務めるのが特徴。世界の観客が共感した理由について、監督はこう分析する。「結局のところ、これは『私たちの物語』だからではないでしょうか。夢を叶えたい、幸せになりたいという気持ちは、誰もが同じ。13歳のドイツの男の子が『生まれてから観た映画のなかで一番よかった』と親指を立てて伝えてくれた姿が心に焼き付いています」。
タイトルの『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』と3回繰り返される言葉には、切実な願いが込められている。「自分がつらいとき、いちばん聞きたい言葉は何だろうと考えたとき、『大丈夫だよ』という言葉が思い浮かびました。『大丈夫?』と気にかける言葉であり、『きっとうまくいくよ』という励ましであり、『大丈夫!』と安心を与える慰めでもある。本当は10回くらい繰り返したかったのですが、さすがに長すぎるので3回にしました(笑)」。
最後に日本の観客に向けて、監督はこうエールを送った。「うまくできなくても、不器用でも、失敗してしまっても、完璧でなくても、『それでも大丈夫』と思って、また立ち上がってみて。時に孤独でつらいこともありますが、それでも大丈夫だと思えるのは、誰かと共にいるから。ささやかでも大切な慰めを届けられたら幸せです」。
取材・文/桑畑優香

