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香港の巨匠ウォン・カーウァイが語る、自身初のドラマ「繁花」と日本の強いつながり「『東京ラブストーリー』は自分たちの青春を象徴していた作品」

香港の巨匠ウォン・カーウァイが語る、自身初のドラマ「繁花」と日本の強いつながり「『東京ラブストーリー』は自分たちの青春を象徴していた作品」

『恋する惑星』(94)、『花様年華』(00)といった数々の名作を生み出してきた香港映画界の巨匠ウォン・カーウァイ。そんな彼が中国文学界の最高峰、茅盾文学賞を受賞した金宇澄の同名小説を映像化し、2023年に中国で放送されたTVドラマ「繁花」が、WOWOWで3月20日(金・祝)より日本初放送&配信される。

1990年代の上海を舞台に、平凡な青年から財界の大物へと上り詰めていく主人公・阿宝(フー・ゴー)と、飲食店を営む玲子(マー・イーリー)、国営貿易会社に勤める汪明珠(ティファニー・タン)、謎の女・李李(シン・ジーレイ)ら3人の女性との関係が描かれる。きらびやかなネオン、徹底的に時代考証を重ねた都市のデザインなどこだわり抜かれた映像は、これまでのウォン・カーウァイ映画同様の美しさだ。10年の歳月をかけて本作を完成させたウォン・カーウァイのインタビューには、作品への想いのほか、制作における日本との密接な関係も語られていた。

「登場人物たちは、私が遠くから眺めていた変革の波を生き抜いた人々」

3人の女性との出会いが阿宝の人生を変えていく
3人の女性との出会いが阿宝の人生を変えていく[c]2023 BLOSSOMS ISLAND PICTURES LTD. ALL RIGHTS RESERVED

――原作小説を読まれて、特に強く印象に残った点や魅力に感じられた要素はどこでしたか?また、それらは本作を映像化しようと決めた理由や、脚本を構築する際のアプローチにどのような影響を与えましたか?

「この小説が私の心に響いたのは、ある時代の正確なリズム——上海が自らを再発見しつつあった瞬間——を捉えていたからです。日常の質感で織りなされたタペストリーのような構成は、映画的だと感じました。また、私にとってこれは兄弟姉妹の世代についての物語でした。登場人物たちは、私が遠くから眺めていた変革の波を生き抜いた人々です。この作品を脚色することは、あの変革の時代を再構築する手段となり、タイムマシンのように私がかつて香港で生活していた時代に並行して存在した上海を仮想的に体験させ、地理的に隔てられていたものをつなぐものとなりました」

――30話という長尺のドラマで、どういうストーリーテリングのリズムを作りましたか?映画とは違う点があったかと思いますが、ご苦労された点を教えください。

「原作はプルースト的な深みを帯びつつ上海の近代史全体を辿りますが、我々は物語の焦点を80年代末から90年代の激動期に絞りました。登場人物たちが青春の無垢さを脱ぎ捨て、計画経済から市場経済への劇的転換という歴史の激流に放り込まれる時代です。小説の壮大な構造には余白が必要でしたので、30話のエピソード構成により、時代を浮き彫りにする小さな瞬間の積み重ねという本質を保てました。この形式は、長編映画では表現し得ない人間関係の漸進的な展開や、変容する都市の微妙な移ろいを描く余地を提供しました。映画とは異なる言語であり、我々は物語が求める言語で語りかけました」

 上海出身のフー・ゴー
上海出身のフー・ゴー[c]2023 BLOSSOMS ISLAND PICTURES LTD. ALL RIGHTS RESERVED

――主人公の阿宝役にフー・ゴーさんをキャスティングされた背景と、演出する際に特に重視されたポイントがあればお聞かせください。

「フー・ゴーには骨の髄まで上海が刻まれています。方言だけでなく、阿宝の抑制と欲望の間で揺れ動くその引力や、混沌の切り抜け方、義理堅さを鎧のように身にまとう術を、彼は直感的に理解しています。これは一人の男の物語ではなく、世代の旅路であり、フー・ゴーとこの街の深い絆が、あらゆる場面に真実の息吹を吹き込んでいます。フー・ゴーは阿宝の育った街で成長し、彼の父はその時代を生きてきました。この深く刻まれた文化的DNAが、彼の演技を単なる演技ではなく、阿宝として生きることそのものにしたのです」

――映画と同様に、本作においても強い美意識へのこだわりを感じます。1990年代の上海のビジュアルを表現するにあたり、どのような映像演出やアプローチを取られたのでしょうか?

「私たちは数十年にわたり、視覚的な考古学の研究を必要としました。撮影監督のピーター・パウと私は数千枚のアーカイブ写真を分析し、完璧な歴史再現は幻影だと悟りました。真の使命は“複製”ではなく“共鳴”に変わりました。それはノスタルジアのニスを剥ぎ取り、生命力を露わにすることです。そして、記憶を宿すロケ地を選びました。例えば、楊浦埠頭は汪明珠の困難な再出発を象徴するような、荒々しく工業的な風景を背景として登場させています。蘇州河は薄明かりの青灰色に染まり、静かな不屈の精神を捉えています。90年代の爆発的なエネルギーを表現するため、上海の繁華街である黄河路を実寸のスケールで再現しました。ネオンの星座と水銀灯が濡れたアスファルトににじむ光景は、あの時代の狂おしい鼓動と香港の2つのエネルギーへの色彩の賛歌となったのです」

 飲食店「夜東京」を営む玲子
飲食店「夜東京」を営む玲子[c]2023 BLOSSOMS ISLAND PICTURES LTD. ALL RIGHTS RESERVED

――登場人物たちの衣装やファッションは、どのような基準や意図のもとでデザインされたのでしょうか?


「衣装においては、当時の上海のファッション感覚がなにより重要だと感じました。80年代の銀座で働いた玲子には、神保町の書店で購入した80~90年代の日本のファッション誌を紐解き、ヴィンテージのイッセイミヤケやコムデギャルソンを調達しました。新たに台頭するホワイトカラー階層を象徴する汪明珠にとって、海外貿易の仕事や海外バイヤーの接待といった役割には、プロフェッショナルで洗練された職場のスタイルが求められました。国有企業の女性たちが通常はズボンを履いていた一方で、日本のTVドラマの影響を受けた対外貿易の女性職員たちはスカートを身につけるようになり始めていた。そこで私たちは、彼女の凛とした二面性を表現するため、日本のオフィスワーカーのスカート丈を正確に研究しました。身につけるすべての衣服が、個人の趣味と社会的地位を示しているのです」

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