香港の巨匠ウォン・カーウァイが語る、自身初のドラマ「繁花」と日本の強いつながり「『東京ラブストーリー』は自分たちの青春を象徴していた作品」
東京と上海は非常にフォトジェニックで質感豊かな都市
――監督の視点から、上海と東京はそれぞれどのようなかたちで描かれるべきだとお考えでしょうか。また、日本という空間や文化がどのような「重力」を持ち、作品の世界を引き寄せる存在となったのか、監督はどのように捉えていらっしゃいますか。
「1972年の日中国交正常化以降、経済、文化、さらにはスポーツに至るまでの交流が、上海と東京の間に深い絆を育みました。1980年代には多くの上海人が日本で学び、働き、その後に帰国しました。玲子というキャラクターは、まさにこうした人々を象徴する存在です。劇中の東京での経験に紐づく貿易や証券市場のサブプロットも、実際の出来事に基づいています。私が初めて東京を訪れたのは80年代半ばのことで、銀座は当時から馴染みのある場所でした。
原作小説では、玲子の東京での暮らしは明確には描かれておらず、映像化にあたって追加したものです。監督として、私は東京と上海の両方が、非常にフォトジェニックで質感豊かな都市であると感じています。当初は銀座でのロケを計画しており、名だたるクラブもいくつか視察していましたが、あいにくパンデミックの影響で断念せざるを得ませんでした。その代わりに上海に銀座の一角を再現したのです。100%正確な再現とはいかないまでも、私が記憶している銀座のエッセンスは捉えられたと思っています。
依田巽氏(株式会社ギャガ名誉会長)と加畑圭造氏(株式会社ツイン代表)、そして、阿宝の見事なスーツの数々をデザインしてくださった滝沢直己氏、彼らのサポートには、特別な感謝を捧げます。そして最後に、1981年のドキュメンタリー映画『長江』の映像使用を快諾してくださった、さだまさし氏に深く感謝いたします。あの偉大な作品は、改革開放の黎明期にある中国の貴重な記憶を保存してくれました。『繁花』にその映像を取り入れられたことは、私たちの誇りであり、彼へのオマージュでもあります」
――ウォン・カーウァイ監督の最新作ということで、日本のファンも楽しみにしております。日本のファンに向けたメッセージをいただけますでしょうか?
「世界中の観客は人間が抱える普遍的な葛藤や願望に共感します。『繁花』は、急速に変化する世界の中で自分の居場所を見つけようとし、名を残そうとし、そして愛、友情、裏切りを行き来する人々の物語です。視聴者は1990年代の上海の具体的な光景や音に触れると同時に、より良い人生を求める普遍的な衝動も感じるでしょう。野心は世界共通の言語なのです。こうした“普通の”人々の情熱と信念こそが彼らを特別な存在たらしめるものです。90年代の上海は、不確実性の中にあってこそ革新が花開くことを教えてくれました。あの夢追い人たちは地図を持たず、ただ自分の腹の底に羅針盤を宿していました。現代の観客が向き合う嵐は違うかもしれませんが、方向転換する勇気は時代を超えて不変です」
構成/編集部
