『許されざるもの』『チェイサー』『ロビー!』に至るまで…現代韓国市民の“代弁者”ハ・ジョンウの軌跡を辿る

コラム

『許されざるもの』『チェイサー』『ロビー!』に至るまで…現代韓国市民の“代弁者”ハ・ジョンウの軌跡を辿る

嫌われ役に魅力的な脇役、ザ・ヒーローなど監督によって異なる魅力を堪能できる!

女性ばかりを狙う猟奇殺人犯に扮し、話題を集めた『チェイサー』
女性ばかりを狙う猟奇殺人犯に扮し、話題を集めた『チェイサー』[c]Everett Collection/AFLO

一方、ハ・ジョンウの「観客に嫌われることも厭わない」俳優としての度胸と覚悟を存分に活かしたのが、ナ・ホンジン監督だろう。初長編『チェイサー』(08)では、女性を残忍な手口で次々と監禁、殺害するシリアルキラー役に起用し、どんな汚れ役にもひるまない凄みを見せつけた。さらに次作『哀しき獣』(10)では打って変わって、犯罪組織の手引きで壮絶なサバイバルに巻き込まれる密入国者役に抜擢。その悲哀たっぷりの佇まいに「守ってあげたくなる」と母性本能をかきたてられたファンも多いはずだ。

『テロ,ライブ』では、テレビ局復帰を目指し、テロリストとの交渉に挑む元人気キャスターを演じた
『テロ,ライブ』では、テレビ局復帰を目指し、テロリストとの交渉に挑む元人気キャスターを演じた[c]Everett Collection/AFLO

善にも悪にも、どちらにも身を振りかねない危うさと人間くささは、その後の出演作でも効果的に生かされている。キム・ビョンウ監督の『テロ,ライブ』(13)では、爆破テロ犯とラジオ放送中に交渉を繰り広げるアナウンサーを、ほぼ一人芝居で熱演。最初は個人的成功を目的にしていた主人公が、犯人とのやりとりのなかで徐々に変化していくグラデーションに目を見張った。

令嬢の財産を狙う詐欺師“伯爵”として悪役を演じた『お嬢さん』
令嬢の財産を狙う詐欺師“伯爵”として悪役を演じた『お嬢さん』 [c]2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

単純なハンサムには収まらない俳優ハ・ジョンウの個性を、魅力的な脇役としてフルに活かしたのが、パク・チャヌク監督の『お嬢さん』(16)だ。どこか究極的には信頼のおけない、最後には自分自身をも裏切ってしまいそうな人間味を内包した個性は、いかにもパク・チャヌク作品向きに思えるが、意外にもこれが初タッグ。しかも女優陣の引き立て役に徹するというポジションで、その「女たらし感」も存分に引きだしてみせた。やはりここでも小狡い男のいやらしさをためらいなく演じつつ、最後には譲れない高潔さをもって退場していく男の愚かな矜持をも説得力をもって演じている。彼の持ち味を有効利用した儲け役といえよう。

敏腕弁護士として、主人公の冥界での裁判に同行するカンニムを好演(「神と共に」シリーズ)
敏腕弁護士として、主人公の冥界での裁判に同行するカンニムを好演(「神と共に」シリーズ)[c]Everett Collection/AFLO

とはいえ、ヒロイックな役がまったく似合わないわけではない。ファンタジーアクション大作『神と共に 第一章:罪と罰』(18)と『神と共に 第二章:因と縁』(18)の2部作では、迷える魂の救済に身を捧げる冥界の使者を力演。もちろんクールでドライな性格もあわせ持ちつつも、これまでの出演作のなかでは最もストレートなヒーローらしさを見せてくれた。また、イ・ビョンホンと共演したパニックアクション大作『白頭山大噴火』(19)では、未曾有の大災害を回避するべく決死の潜入ミッションに挑む爆発物処理班員を熱演。限りなくコメディに接近したバカバカしいほど大スケールの娯楽大作でも、堂々たる主役を演じきれる器の大きさを見せつけた。

このまま国民的大スターの道を歩んでもおかしくなかったはずだが、やはりどうも、そういう大味な路線が似合わない。その点『ロビー!』では、変な言い方だが、久々に俳優ハ・ジョンウの「普通の人」オーラが全面に発揮されている。現代韓国市民の”代弁者”としての意識が、最も色濃く打ちだされた作品ともいえるだろう。

はたしてチャンウクの波乱万丈な接待ゴルフの行方は?(『ロビー! 4000億円を懸けた仁義なき18ホール』)
はたしてチャンウクの波乱万丈な接待ゴルフの行方は?(『ロビー! 4000億円を懸けた仁義なき18ホール』)Copyright [c] 2025 MICHIGAN Venture Capital, WYSWYG Studio, WALKHOUSECOMPANY & FILMMOMENTUM,All Rights Reserved


監督としては、あるいは才能ある風刺作家としては「わが国のリアル」に生きる人々を容赦なく描きつつ、ささやかながら救済の可能性も示し、日本の観客にも「選びたくない道は無理して選ばなくていい」と思わせてくれるはずだ。実はすでに4本目の監督作『上の階の人たち(原題:윗집 사람들)』も撮り上げており、今後の活動から目が離せない。

文/岡本敦史


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