化け猫パレードはどうやって撮影?『レンタル・ファミリー』制作者と地域の信頼のもと生まれた、“神楽坂ロケ”秘話を徹底鼎談!
『ザ・ホエール』(22)でアカデミー賞主演俳優賞を受賞したブレンダン・フレイザーを主演に、東京の街に暮らす“かりそめの家族”たちの肖像を描く『レンタル・ファミリー』が公開中だ。長編デビュー作『37セカンズ』(19)で脚光を浴び、「TOKYO VICE」や「BEEF/ビーフ」と続々、話題作を世に放つ日本出身の国際派クリエイター・HIKARI監督の最新作は、全編のロケを日本で敢行した意欲作でもある。なかでも、フレイザーが演じる主人公フィリップが、生き別れた父親という役どころを超えてクライアントの一人娘との絆を深めていく「化け猫フェスティバル」のシーンは、強い印象を残す。
毎年秋に新宿区神楽坂で実際に行われている祭りを、時期を春に移してほぼ完全に再現したうえでロケを行った。この撮影の実現には、映画やドラマのロケの調整を行い、撮影をバックアップする東京都のロケ支援窓口である「東京ロケーションボックス」の尽力があるのは言うまでもない。映画の公開を機に、『レンタル・ファミリー』エグゼクティブ・プロデューサーの1人である小泉朋、「化け猫フェスティバル」主催者の1人として知られ、パペット作家、役者、イラストレーターと多岐に渡って活動している表現者・おかめ家ゆうこ、そして「東京ロケーションボックス」の遠藤肇の3人に、神楽坂ロケの舞台裏やメイキング的エピソードの数々を語ってもらった。
アメリカ人俳優のフィリップ(フレイザー)は、東京に移住して7年。かつてはCMでインパクトを残したが、いまは鳴かず飛ばず。日本に居心地の良さを感じつつ、俳優としては岐路に立っているのを感じていた。そんなある日、エージェントから葬儀場で弔問客を演じる仕事が舞い込む。その帰りにレンタルファミリー社を経営する多田(平岳大)からスカウトされたフィリップは、結婚式の新郎やゲーム相手のいない男性の友人といった“役”を演じることに。やがて、母子家庭で育つ少女・川崎美亜(ゴーマン シャノン 眞陽)を名門私立学校に入学させるため、生き別れた父親役を請け負うが、潜在的に父という存在を求めている美亜の心に呼応するように、本当の父娘のような絆を深めていく。
「『え、ハリウッド映画?ダマされてない!?』っていうリアクションもありました(笑)」(おかめ家)
――劇中では、「神楽坂化け猫フェスティバル」(以下、「化け猫〜」)に参加することでフィリップと美亜が“父娘”としての距離を近づけていくさまが描かれています。ところで、数多くある東京のお祭りのなかから、なぜ「化け猫〜」に白羽の矢を立てたのでしょうか?
小泉朋(以下、小泉)「脚本制作の割と早い段階からフィリップと美亜が“猫まつり”に行くシーンは組み込まれていたんです。ただ、それがHIKARI監督の想像上の“猫まつり”だったか、あるいは『化け猫フェスティバル』だったのかは思い出せないんですけど、漠然とかわいらしい雰囲気のお祭りの描写にしたい、ということは初期のころから話していて、台本の準備稿にも“化け猫祭り”と記してあったんですよ」
おかめ家ゆうこ(以下、おかめ家)「共同脚本のスティーブン(・ブレイハット)が一度、『化け猫〜』に来たことがあったんです。その時に撮った膨大な写真を見せてくれて(笑)、『この纏(まとい)を使わせてもらえないか?』『これはどうか?』といったことを聞かれまして」
小泉「そもそもHIKARIさんとスティーブンの間で、いわゆる単に伝統的な祭りじゃないけれども、日本的な雰囲気のあるイベントがいいという話をしていたのと、以前スティーブンが実際に観ていたこともあって、『化け猫~』はどうかということになって。当初は実際に開催される10月に劇中シーンも撮るつもりだったんですけど、SAG(-AFTRA=全米俳優組合)のストライキと重なって延期になってしまったんです。ブレンダンたちの芝居は別撮りで、お祭りの実景だけでも撮ろうか考えたんですけど、結局、1回白紙にしましょうとなってしまって。東京ロケーションボックスさんとも神楽坂でロケをする場合、どうすればいいでしょうか、といったお話もしつつ、関東近郊にオープンセットをつくって、ゆうこさんたち『化け猫〜』の方々にも来ていただいて撮る、ということも検討はしていました。ただ制作担当のスタッフは『“化け猫〜”チームは神楽坂のほうがやりやすいんじゃないか』と見立てていたので、ならば神楽坂でロケを敢行しようという方向に舵を切った感じでしたね。仮に、もしオープンセットで撮っていたら、実際の『化け猫〜』のスケール感に及ばなかったと思います。そういう意味でも神楽坂でロケが出来てラッキーでしたし、アメリカのプロデューサー陣も大興奮していました」
遠藤肇(以下、遠藤)「最初に『レンタル・ファミリー』というタイトルで、HIKARIさんが監督を務めると聞いたのが実は相当前で、冬の時期だったんです。その時点では、わりとスムーズに撮影の準備に入っていくと制作部からは聞いていたんですが、音沙汰がなくなってしまって。そしたら、小泉さんがお話されたように、いろいろとあって一旦白紙になったわけですけど、HIKARIさんたちは『化け猫〜』を気に入っている、と。できれば、これを撮りたいということで、東京ロケーションボックスとしては神楽坂の商店街に話をつないだり、所轄の警察署にも話をして。本当はスパイダーカムを使って鳥瞰とか俯瞰の映像を撮りたかったらしいんですけど、それはちょっと許可が下りなかったんですよ。でも、お祭りの再現はできると。再現にあたって、商店街やパフォーマーの方々にも集まっていただき、ロケができるのなら道路使用許可も出しましょう、という具合に街ぐるみでやります、という流れになっていったんです」
おかめ家「神楽坂の人たちもロケが実現できるように、みんながそれぞれにできることをやっていったんです。東京ロケーションボックスさんが警察に許可願いに行く時は、私たちも一緒についていって。どういう状況なのか分かっていれば、『化け猫〜』側としても準備がしやすくなるよねって、いろいろな人たちが動いてくれたんです」
遠藤「商店街はたいてい警察の交通課とつながりがあって、交通規制担当の方もいらっしゃるんですよ。そういう方が僕らと一緒に来てくださって、話を通しやすくしてくれたのも大きかったですね。信頼関係ができあがっているので、『それなら、いいですよ』みたいな感じで話がまとまりやすいんです」
――資料によると、商店街を50m以上の道を丸々使っていて、大規模なんですよね。
小泉「エキストラさんの着替え場所をどうするか、動線も事前にしっかりと決めて。そこでも、ゆうこさんたちが労力を割いてくださって。実際の『化け猫〜』を開催する以上に大変だったと思います」
おかめ家「一番苦労したのは、化け猫の仮装をしているメンバー集めでしたね。毎年、『化け猫〜』をやる当日に自然と全国各地から集まってきていたので、名簿もなかったですし、仮装している写真ばかりなので、素顔がわからないんですよね(笑)。なので、SNSで『化け猫〜』に参加したことがある人たちを検索して、お一人ずつ『今度、ハリウッド映画のロケをするから仮装行列に来ませんか?』ってメッセージを送っていったんです。『え、ハリウッド映画?ダマされてない!?』っていうリアクションもありましたけど、全部で200人くらい集まってくれました。
それまではお祭りの日に会って、『また来年!』っていう関係だったんですけど、初めてパフォーマーの方々がどこに住んでいらっしゃるのか知ることができました。結構、全国各地にいらっしゃって、遠くからやってきてくださるのがわかったのも興味深かったですし、実際にたくさんの方がエキストラで参加してくれたので、苦労が報われました(笑)」

