A24製作『エディントンへようこそ』撮影監督、ダリウス・コンジにインタビュー。名だたる巨匠と組んできたベテランらしからぬ信条とは?

A24製作『エディントンへようこそ』撮影監督、ダリウス・コンジにインタビュー。名だたる巨匠と組んできたベテランらしからぬ信条とは?

ニューメキシコ特有の光と闇を捉えるため、あえてコントラストを上げて臨むことにした。「監督と話をして、目が痛くなるくらいの明るさで撮りました。太陽が昇り、光が地表にバウンスし周囲を明るく照らしていく様をそのまま捉えたかったんです。撮影したのが年の初めで太陽の位置は低かったものの、十分に強い光でした。そんな昼とのコントラストをつけるため、夜のシーンは逆に不気味なくらい暗くしました」。自然光のほか、町の明かりも効果的に使われた。「砂漠に人工の灯があったらおもしろいだろうと、日が暮れて家々の電球がついていく様も使っています。暗くなるとポツリポツリと電球が灯る様子はまるでバブルのようでした」

最低限の照明によって撮影された夜のシーン
最低限の照明によって撮影された夜のシーン[C] 2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

強い光や闇は作品のスタイルを決定づける重要な要素だったが、撮影はチャレンジングだったと振り返る。「この作品では3分の2近くが夜のシーンでしたが、撮影は困難でした。町には少し光がありますが、砂漠は真っ暗なので、問題はどうやって撮影するか。砂漠も映画のキャラクターなのでその奥深さを撮るために、人工的な光を当てたくはありません。そこでクレーンにいくつか照明を乗せ、高い位置から照らすことにしたんです。町では多少は撮りやすくなりましたが、街灯がほとんどないのでここでもクレーンで光を追加しています。この作品の照明は多くの要素を見せるためのものではなく、観客に必要最低限の情報を与えるために使ったのです」と語るコンジは、昼の撮影も楽ではなかったと明かす。「窓が大きな部屋で撮影すると、あまりに日が強いため外の景色が真っ白に飛んでしまうんです。優れたスタッフやアシスタントに恵まれたので、明るさを調整しながらなんとか克服しましたが、砂漠での撮影はチャレンジの連続でした」

「常に監督に合わせることを信条にしています」

アスターと組んだ本作を振り返り、コンジは緊張感がある充実した現場だったと振り返る。「集中力を要する緊張の日々でしたが、満足感が高い撮影でした。アリはとても優しくおもしろい人物ですが、作品に対する姿勢はひたむきで、物語を伝えるためどんなショットが必要なのか頭の中で考え抜いて撮影に臨む監督です。撮ったショットを朝や夜にアシスタントたちと一緒に観ながら、どのように組み立てるか話し合いをしていました。ショット数も可能な限り撮りたがるので、私たちもいつも以上の緊張感で臨みました。そういう意味では大変でしたが、実りのある撮影になりました」

キャストやスタッフと密に話し合いを重ねるアリ・アスター監督
キャストやスタッフと密に話し合いを重ねるアリ・アスター監督[C] 2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.

数多くの巨匠とタッグを組んできたコンジが、撮影監督として常に心掛けていることは、リセットだという。「監督たちはそれぞれアプローチや働き方、準備の仕方も違っているし、なにより違うストーリーを伝えています。ですから、常に監督に合わせることを信条にしています。かつて『セブン』を撮ったあとにベルナルド・ベルトルッチの監督の『魅せられて』に参加しましたが、『セブン』で学んだことや身につけた技術はまったく通用しませんでした。『ファニーゲーム U.S.A.』の次にウォン・カーウァイの『マイ・ブルーベリー・ナイツ』を撮った時も同じです。ですからそれぞれの監督やストーリー、現場に合わせて自分の技術を持ち込むよう心掛けています」。そんなコンジもかつて現場で委縮したこともあったという。「私は好きな監督とだけ仕事をしてきましたが、尊敬するロマン・ポランスキー監督の作品では、畏怖の念に駆られてしまい最初はセットでなにも言えずにいたんです。しかし作品を作っていくうちに、自分の仕事は監督をサポートすることだと気づいたんです。作品を作り上げるための一員だという意識が芽生えてからは、どんな偉大な監督との仕事でも自分の力を発揮できるようになりました」

ジョシュ・サフディ監督との再タッグとなる『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(2026年3月13日公開)も期待!
ジョシュ・サフディ監督との再タッグとなる『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(2026年3月13日公開)も期待![C] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

本作はアスター監督作をはじめ、個性豊かな作品を数多く送り出しているA24作品。本作以降もA24作品が続いているコンジは、同社の持ち味は若い才能とのかかわり方にあると指摘する。「この映画のあとも『アンカット・ダイヤモンド』以来のタッグとなるジョシュ・サフディ監督の『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』とA24作品が続いています。私が受けた監督の作品をA24がプロデュースしていたという流れではありますが、彼らのスタイルには共通点があると感じます。それは若い監督に自由を与え、彼らをしっかりバックアップしていること。そのことで新しい作品を次々に生み出しているのです。ワクワクするようなおもしろい会社、それがA24の魅力だと思います」


取材・文/神武団四郎

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