“いまはもうこの世にいない韓国のアイドル”への想い…『12月の君へ』ユン・スイク監督が明かしたハン・ソヒ演じる「ソル」のネーミング秘話

“いまはもうこの世にいない韓国のアイドル”への想い…『12月の君へ』ユン・スイク監督が明かしたハン・ソヒ演じる「ソル」のネーミング秘話

7月に行った日本初のファンミーティングが全席完売するなど、国内外でファンを虜にする韓国芸能界の若きアイコン、ハン・ソヒ。彼女が待望のスクリーンデビューかつ初主演を飾った韓国映画『12月の君へ』が公開中だ。

【写真を見る】スクリーンデビューで繊細な演技を披露したハン・ソヒ
【写真を見る】スクリーンデビューで繊細な演技を披露したハン・ソヒ[c]2025 Elles Films Co., Ltd.

アジアを代表するインディペンデント映画祭の一つ、第24回全州国際映画祭の韓国コンペティション部門に正式出品され、チケットがわずか1分で完売した話題作『12月の君へ』。「わかっていても」でブレイクし、数々のドラマに出演する韓国ドラマ界の“圧倒的女神”ハン・ソヒがスクリーンデビューを飾った本作のメガホンを取ったのは、韓国で“次世代のシネアスト”として注目を集めるユン・スイク監督だ。

ソウル芸術大学デジタルアート学科を卒業後、2013年に長編映画『Groggy Summer』を全州国際映画祭に正式出品。自由な構図と精緻なクローズアップショットを駆使し、詩を書く高校生の葛藤や、青春の激しい感情を生々しく描き出し、映画界に強い印象を残した。約10年の時を経て、本作で再び同映画祭に登場し、幻想と現実が交錯する映像美と、細部にわたる感情表現で審査員を魅了した。

高校生時代の出逢いから大人になり再会した二人を追う
高校生時代の出逢いから大人になり再会した二人を追う[c]2025 Elles Films Co., Ltd.

独自の芸術的センスと繊細な感情のドラマで韓国では評価されてきたユン・スイク監督だが、作品が日本で公開されるのは初めてだ。今回、待望のユン・スイク監督へのインタビューが実現。キャラクターのネーミング秘話から日本への思いまでを語ってもらった。

いまはもうこの世にいない韓国のアイドルから着想を得たソル&『SLAM DUNK』に登場する「流川楓」のような性格のスアン

運命に導かれるように親しくなった、二人の少女。俳優を夢見る高校生スアン(ハン・ヘイン)の前に、都会から美しい人気俳優のソル(ハン・ソヒ)が転校してくる。煌びやかな世界で自分を見失ったソルの心は、スアンの青く燃えるような演技に惹かれていく。放課後、冬の海でサーフィンをした2人は、冷えきった体を炎の前に寄せ合い、互いの孤独に触れながら少しずつ心を通わせていく。しかし、思春期の揺れる想いは「友情」と「恋愛」の狭間ですれ違い、ソルはスアンの前から姿を消してしまう。成長して人気俳優となったスアンは、あのとき伝えられなかった想いを胸に、今もなおソルの面影を探し続けている。そしてある寒い雪の日、彼女はふたたび、冬の海へと向かう。

本作で待望のスクリーンデビューを果たしたハン・ソヒ演じるソルは、10歳の頃から子役として活躍する人気俳優。華やかな芸能界の中で人からどうみられるかを気にし、自分を見失ってしまう繊細なキャラクターだ。この役名は監督が自ら命名した。

真っ直ぐにスアンヘ思いを伝えるソル
真っ直ぐにスアンヘ思いを伝えるソル[c]2025 Elles Films Co., Ltd.

「ソルという名前は、いまはもうこの世にいない韓国のアイドル「f(x)のソルリ」に着想を得て、脚本の初稿に仮でつけたものでした。たまたま『ソル』が『雪』を意味することもあり、そのまま使い続けることにしました」

また、“韓国映画界の秘宝”とも称される実力派ハン・ヘインが演じるスアンは、高校時代はショートカットにパンツスタイルで、長髪のソルとは対照的なボーイッシュな外見をしている。しかし、映画中盤で大人になったスアンは長髪にスカートと印象がガラッと変わる。その意図について監督は、日本の大人気漫画で韓国でも絶大な支持を集めている『SLAM DUNK』を引用する。

初めての感情に戸惑い、一度はソルを拒んでしまったスアンだったが…
初めての感情に戸惑い、一度はソルを拒んでしまったスアンだったが…[c]2025 Elles Films Co., Ltd.

「『SLAM DUNK』に登場する流川楓というキャラクターは、卓越した実力を持ちながらも有名校ではなく家から近い無名校・湘北を選びます。スアンの選択も、髪が短いことが何かへの抵抗というより、ただ「楽だから」選んだ、というシンプルな性格を反映していると考えています。ただ、未来において自分のままでは生きられない不自由さが自然と反映され、より典型的なスタイルへと変化したのではないかと思います」

現実と夢、記憶と願望が入り混じる幻想的な映像美

思春期の揺れる想いが「友情」と「恋愛」の狭間ですれ違い、離れ離れになってしまった高校時代と、成長して人気俳優になっても初恋のソルを探し続けるスアンが再会を果たす大人になった2つの時間軸が印象的な本作。成人後のシーンでは幻想的な演出が際立ち、現実と夢、記憶と願望が入り混じる。この演出によって、観客の多様な解釈を促そうとしたのだろうか。

ライティングなどにこだわった幻想的映像美は必見
ライティングなどにこだわった幻想的映像美は必見[c]2025 Elles Films Co., Ltd.

「この物語を作る際、1. 記憶の中の学生時代、2. スアンの想像の中の現実、3. 現実――という三つのコンセプトをベースに制作しました。観客がさまざまに解釈するだろうとは思っていましたが、その解釈が一貫しているかどうかは重要ではないと考えています。最終的には、スアンが描いた『ソルへの想いの風景』として観ていただけたら嬉しいです」

「俳優たちの物語を描く中で、自然と芸能界の風景が反映された」

スターになったソルやスアンが他人の視線を過度に意識する姿勢や、薬物・外見至上主義といった問題が描かれている。これは監督自身が韓国の芸能界に触れる中で感じた危機感が反映されたものなのだろうか。


「俳優たちの物語を描く中で、自然と芸能界の風景が反映されたのだと思います。私は特定の問題提起をするためにこのような題材を使ったわけではありません。良し悪しの判断よりも、ただありのままの彼らを見つめようとした結果、自然に表れたものだと考えています」


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