マイケル・キートンが監督・主演・製作を兼任した『殺し屋のプロット』を語る「俳優としての自分を犠牲にせず、あらゆる方面に“フェアでいること”が重要」
バットマン役や、アカデミー賞作品賞に輝いた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(15)、近年も『ビートルジュース ビートルジュース』(24)など、俳優として多様な活躍を続けてきたマイケル・キートン。そんな彼にとって、監督2作目となる『殺し屋のプロット』が、12月5日(金)から日本で公開される。
主人公ジョン・ノックスを演じるのもキートン自身。殺し屋という裏稼業を続けてきたノックスが、病によって急速に記憶を失うという切実なストーリーに、演じる立場、撮る立場の両面から、彼の渾身の想いが伝わってくる。これまでのキャリアの集大成ともとれる本作にどんな気持ちで向き合ったのかを、マイケル・キートンに聞いた。
「最初は俳優としてオファーを受けました。ストーリーに惹かれて、自分で監督したいという想いが芽生えたんです」
どのような経緯で自ら監督し、主演を務めることを決意したのか。この質問にキートンは誠実な口調で答え始める。「最初は俳優として、この『殺し屋のプロット』のオファーを受けました。まずストーリーとして惹かれましたね。ただ、それから1年ほど企画が“寝かされた”状態になり、そうこうしているうちに、自分で監督したいという想いが芽生えてきたんです。そこでプロデューサーのマイケル・シュガーに自分の意思を伝えました。スケジュールさえうまく合えば、監督すること自体はそれほど難しくないと判断したのも事実です。とにかく決め手はストーリーでしたね」。
マイケル・キートンの初監督作は、2009年の『クリミナル・サイト 〜運命の暗殺者〜』。やはり主人公は今回と同じ殺し屋だった。今回も「“殺し屋映画”をやりたいと思ったわけではない」そうで、「殺し屋は主人公ノックスの仕事にすぎず、作品の中心が人間関係であることが重要だった」という。このような題材を、初監督作以降、2作目として探し続けていたのだろうか。
「もう一度、監督をやりたいと、常に考えていました。ただ、俳優としても多忙を極めていましたし、家庭では父親としての役割も大きくなっていたので、なかなかタイミングが合わなかったのです。俳優業を続けながら、もっと間を置かずに監督にトライするべきだったと、いまとなっては感じていますよ。ただ1作目と2作目のアプローチは異なっています。前作『クリミナル・サイト』は、基本の設定やストーリーはシンプルで、余白が感じられました。その余白を、監督として視覚的に“埋めていく”部分があるとアプローチしたわけです。結果的に、脚本の意図とも異なる作品ができあがった気がします。一方で今回の『殺し屋のプロット』は、“見えてきた”ストーリーを、そのまま真摯に表現する感覚でした」
かなり時間が空いたとしても、過去に監督経験があったキートンなので、2作目ではその経験が活かされたのではないか。そう投げかけると、彼は全面的に肯定する。
「そうですね。つねに人は過去の経験から学ぶわけですから、役に立ったと思います。いろいろな種類の“学び”の中で、実利的な部分では、前作の経験が活かされました。たとえば“1日のうちでどれくらい撮影できるか”を、あらかじめ予想し、計画できたんです。この『殺し屋のプロット』は、24日間というかなり短い撮影期間でした。しかし各所でドラマが展開するので、ロケ地は多様です。時間の配分をどうするかが試されました。なにが絶対に必要で、なにが不要なのかをシビアに判断していったわけです。このようなやりくりをした結果、予算が潤沢な大作は、いかに無駄な部分が多いかを改めて実感しましたね(笑)。現場で削れるものは、けっこう多い。本作の撮影がそれを証明していると思います」。
