観客をも欺く、天才ヒットマンの“完全犯罪”とは?マイケル・キートンが『殺し屋のプロット』で描く、緻密な筋立てと贖罪の物語

コラム

観客をも欺く、天才ヒットマンの“完全犯罪”とは?マイケル・キートンが『殺し屋のプロット』で描く、緻密な筋立てと贖罪の物語

キートンが込めた、年老いた殺し屋の“贖罪”と重層的な人間模様

殺し屋である父を軽蔑し疎遠になっていたノックスの息子、マイルズ (ジェームズ・マースデン)
殺し屋である父を軽蔑し疎遠になっていたノックスの息子、マイルズ (ジェームズ・マースデン)[c] 2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

「主人公のノックスはヒットマンだが、それは生業に過ぎない。これは人間関係の映画なんだ」。監督、主演のキートンがそう語るように、本作はノックスを囲むあらゆる脇役のキャラクターを丹念に描いている。とりわけ重要なのは、息子マイルズとの親子関係だ。ノックスは殺し屋としての腕は一流だが、父親や夫としては失格の烙印を押された男。家族を崩壊させた苦い過去を持つノックスと、彼を激しく憎んできたマイルズが織りなす葛藤の物語には、年老いた殺し屋の“贖罪”というテーマがこめられている。

2人のレジェンドが初共演!完全犯罪の鍵を握るゼイヴィアを渋く演じ切ったアル・パチーノ
2人のレジェンドが初共演!完全犯罪の鍵を握るゼイヴィアを渋く演じ切ったアル・パチーノイラスト/石川三千花

加えて、見逃せないのがアル・パチーノの助演だ。ご存じ「ゴッドファーザー」三部作(72~90)を始めとする幾多の名作で、比類なきカリスマ性を発揮してきたハリウッドの“生ける伝説”が、ノックスの唯一の協力者となる元泥棒ゼイヴィア役で出演する。最期の仕事をやり遂げて去りゆこうとするノックスと、それを見届けるために彼を支えるゼイヴィア。酸いも甘いもかみ分けた両者の関係性を表現したキートンとパチーノの共演シーンには、男同士の友情と悲哀がじんわりとにじむ。さらにノックスと別れた妻(ハーデン)、彼が孤独をまぎらわせるために週に一度自宅に呼ぶコールガール、アニー(ヨアンナ・クーリク)とのドラマも味わい深く、胸に染み入る重層的な人間模様を堪能できる作品となった。

ノックスの盟友で元泥棒のゼイヴィア(アル・パチーノ)
ノックスの盟友で元泥棒のゼイヴィア(アル・パチーノ)[c] 2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ここまで本作の見どころをいくつも紹介してきたが、幾重にも張り巡らされたサスペンス、ミステリー、ヒューマンドラマは、最終的にすべての要素が1つに収束する。それは難病に冒された老ヒットマンの“人生の幕引き”という主題だ。むろん、いかなる終幕が用意されているかは観てのお楽しみだが、完全犯罪の“意外な真実”が判明するクライマックスの先には、またもや謎めくノックスの心中に思いを馳せずにいられないエンディングが待っている。

思考が搔き乱される…!驚愕の“完全犯罪”をスクリーンで
思考が搔き乱される…!驚愕の“完全犯罪”をスクリーンで[c] 2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


複雑な人生を送ってきた孤独な殺し屋が、苦難に満ちた最期の仕事の果てに行き着いたのは、いったいどのような境地なのか。スター監督のキートンがあたかも完全犯罪のごとく紡ぎ上げたこのネオノワールの醍醐味は、しばし忘れがたいラストシーンがもたらす深い余韻に凝縮されている。

文/高橋諭治

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