SNSや小説と連携を取り“読み解き”を促す『ナイトフラワー』花言葉や娘が弾くクラシックが示唆する作品全体の象徴性
家族のあり方にも射程を広げた、玉虫色な「ファミリー・プロット」
象徴性といえば、夏希の娘、ヴァイオリンに打ち込む小学生の小春(渡瀬結美)の弾く曲も。得意なレパートリーであり、彼女の演奏会を観て感動した多摩恵が試合の入場曲とするのはバロック中期の巨星、アルカンジェロ・コレッリが作曲した「ラ・フォリア」。全12曲で構成された「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ」作品5の第12番に該当し、イタリア語で「狂気」や「愚かさ」「常軌を逸した」といった意味が。先に公式がヒントを出した(キリスト教にまつわる)絵画など、ほかにもいろいろと挙げることはできるのだが、これから本作へと飛び込む人のためにもう止めておこう。
内田監督はいわゆるアメリカン・ニューシネマ、例えば邦題『真夜中のカーボーイ』、ジョン・シュレシンジャー監督の『Midnight Cowboy』(69)でジョン・ヴォイトとダスティン・ホフマンが体現したような「都会の片隅でひっそりと生きる2人組」の映画、バディ(相棒)もの好きと公言している。『ナイトフラワー』では『ミッドナイトスワン』に続いて変格バディムービーを志し、さらには家族のあり方にまで射程を広げ、言わば玉虫色な「ファミリー・プロット」を構築したと言える。
映画のエンディングを飾るのは世界的なピアニスト角野隼人の書き下ろし曲「Spring Lullaby」。直訳すれば「春の子守唄」。その優しい子守唄で眠りへと就くのは誰なのだろうか?
文/轟夕起夫
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