物語は実体験から生まれた?キーワードで細田守監督作品の“現実性”と魅力をひも解く【スタジオ地図「A to Z」連載第4回】
Q…Quarrel【口げんか】
いきいきした会話も細田守作品の魅力。『バケモノの子』では師弟関係にある熊徹と九太が何度も激しく口げんかするが、2人のテンポの良い掛け合いは、むしろ熱い絆を感じさせるものだ。最初に熊徹が九太を気に入ったのも、九太がひるまず言い返したから。各所の賢者を訪ねる旅でも、2人の口げんかは相変わらずで、「おまえたち、いがみ合う体力だけは尽きないな…」と百秋坊に呆れられる。
細田作品における口げんかは、登場人物の生々しい感情や本音の発露そのもの。『サマーウォーズ』では陣内家の親戚たちが意見をぶつけ合う場面があり、『未来のミライ』では幼いくんちゃんが家族に対して不満をぶつける。こうした口げんかは、単なる対立や確執ではなく、関係性の再構築や絆の確認につながるものとなる。『果てしなきスカーレット』で、率直に怒りや葛藤を言葉として表出するスカーレットの姿も然り。細田作品では言葉の応酬に人間らしさが宿っており、感情のぶつかり合いを通じてキャラクターの奥行きを表現しているのだ。
S…Scenario【脚本】
『時をかける少女』と『サマーウォーズ』の脚本は、実写とアニメーションの垣根を超えて活躍する脚本家、奥寺佐渡子が手掛け、『おおかみこどもの雨と雪』は細田と奥寺の共同脚本である。ちなみに初期短編の『デジモンアドベンチャー』(99)『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(00)2作の脚本は吉田玲子が担当した。
そして『バケモノの子』からは、細田監督が脚本を執筆するようになる。当初「僕にとっても修行のつもりでした」と細田監督は語っていたが、以降も『未来のミライ』『竜とそばかすの姫』『果てしなきスカーレット』と、すべての物語をオリジナル脚本で制作している。
T…Triennially【3年ごと】
細田守監督は14年間勤めた東映アニメーションを退社して、独立してからの長編第1作『時をかける少女』は2006年公開されて以降、ちょうど3年ごとのスパンで新作を発表し続けてきた。2009年に『サマーウォーズ』、2012年に『おおかみこどもの雨と雪』、2015年に『バケモノの子』、2018年に『未来のミライ』、2021年に『竜とそばかすの姫』を公開してきた。このサイクルは意識的に取られたものなのか?ともあれ創作ペースの安定ぶりには驚かされる。
『果てしなきスカーレット』は4年ぶりの新作となった。構想が生まれたのは2022年3月ころで、ロシアのウクライナ侵攻など、各地で戦争が起こり始めた痛ましい世界情勢を受けてのことだった。
文/森直人

