『愚か者の身分』永田琴監督&林裕太を釜山で直撃!「⽣きようとすることは決して愚かな選択肢ではない」

『愚か者の身分』永田琴監督&林裕太を釜山で直撃!「⽣きようとすることは決して愚かな選択肢ではない」

「自分のお芝居をいろんな人に向けて発信していいんだ、と認めてもらえた気がします」(林)

汚い箸の使い方でマモルの家庭環境を表現したかったという林
汚い箸の使い方でマモルの家庭環境を表現したかったという林[c]2025映画「愚か者の身分」製作委員会

――タクヤがマモルの腕の傷に気づくシーンでは、マモルの箸の持ち方が覚束ないように見えたのですが。

林「ありがとうございます!あそこは必死に練習しました」

永田「本人は綺麗なんですよ、箸の使い方が。そこをね、『握り方はグーじゃない?』と言って」

林「家庭環境や背景に背負っているものを表すには、言葉で説明するより仕草や動作に見えた方が説得力もあるし、大事にしたいなと思っていて。監督からもとにかく練習してくれと言われてました」

永田「定期的にね、出来をチェックしてたもんね」

林がラストシーンに込めた思いとは…
林がラストシーンに込めた思いとは…[c]2025映画「愚か者の身分」製作委員会

――この映画は橋で始まり、橋で終わります。林さんはマモルの気持ちをどのように受けとめてラストシーンを演じたのでしょうか。

林「最後をどうするかはずっと迷っていて、監督とも話し合うなかで決まっていきました。僕としては、あの時のマモルは先のことを深く考えていたわけでもなく、ただいままで背負っていたものが重たく感じたというか。橋の下にはこの作品でみんなが最も遠ざけようとしているものがすぐそこに見えたけど、マモルにはタクヤと梶谷から授かったものがある。でもそれは答えではなくて、お客さんに委ねたいと思います」

取材は終始和やかな雰囲気のなかで行われた
取材は終始和やかな雰囲気のなかで行われた撮影/Lee Junghee


――釜山国際映画祭への出品で海外の観客の目に触れる機会を得ただけでなく、最優秀俳優賞の受賞は作品の力を裏付けたと言えます。この経験は監督として、俳優として、どんな糧になっていくと思いますか?

林「僕は『HAPPYEND』(24)に続いて2年連続で海外の映画祭に参加できたのですが、それは自分の力というよりも、まだ運のおかげだと思っています。でも自分のお芝居をいろんな人に向けて発信していいんだと認めてもらって、表現者として可能性が高まったような気がしていて。今後もその気持ちの持ちようを支えに生きていければなと思います」

永田「監督として国際的な映画祭で注目されるには、初めの数本までが勝負とも言われるなかで、私はそういう景色をまったく見ずにここまで続けてきました。なので、いまさらだとは思いながらも、なんとかしがみついてやろう、みたいな気持ちでした。今回、日本で作ったものを海外の人に観てもらうことで、海外で作った場合と同じぐらいの可能性を感じられるものになり得ることを一番感じているというか。これを機会に自分の視野も活動の場ももっと広げていければいいなと思っています」

取材・文/奈々村久生

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