キーワードでひも解く細田守監督が描いた家族の在り方、成長し続けるヒロイン…【スタジオ地図「A to Z」連載第2回】

コラム

キーワードでひも解く細田守監督が描いた家族の在り方、成長し続けるヒロイン…【スタジオ地図「A to Z」連載第2回】

『時をかける少女』(06)、『サマーウォーズ』(09)、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)、『未来のミライ』(18)、そして『竜とそばかすの姫』(21)。これまでに国内外の数々の賞に輝き、日本のみならず世界中の観客を魅了し続けているアニメーション映画監督、細田守。そんな細田監督が“家族”や“成長”といった普遍的なテーマをさらに広げ、“生きる”という壮大なテーマに挑んだ最新作『果てしなきスカーレット』が11月21日(金)に公開される。

MOVIE WALKER PRESSでは、スタジオ地図の作品の魅力をA~Zのキーワードからひも解き、細田監督のこだわりと哲学に迫る連載を5回にわたりお届けする。この連載を読みながら、『果てしなきスカーレット』の公開を心待ちにしてほしい。

F…Family【家族】

これぞ細田守作品における最大のテーマかもしれない。初監督作の劇場版『デジモンアドベンチャー』(99)で現代の核家族像を反映させるところから始まり、以降の作品でも家族の在り方を多角的に描いてきた。

シングルマザーとして奮闘しながら、2人の子どもを愛情深く育てる花の姿を描く『おおかみこどもの雨と雪』
シングルマザーとして奮闘しながら、2人の子どもを愛情深く育てる花の姿を描く『おおかみこどもの雨と雪』[c]2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

『サマーウォーズ』では、都会育ちの一人っ子が地方の旧家に暮らす大家族と出会い、血縁と絆の力を体験する。『おおかみこどもの雨と雪』では、シングルマザーとして子どもを育てる女性の姿を通して、母性と孤独の強さが描かれる。『バケモノの子』では、血のつながりを超えた父性の意味を問い直し、親子関係の本質に迫る。『竜とそばかすの姫』では、幼くして母を亡くした女子高生がインターネット空間を旅するなかで、ネグレクト(児童虐待)という社会問題に触れながら、父親の役割に新たな視点を投げかける。『未来のミライ』では、都市生活者の家庭を舞台に、4歳の男の子・くんちゃんの視点から、家族の絆が再構築されていく様子が描かれる。

国王である父を殺した敵への復讐を心に誓う王女のスカーレット(『果てしなきスカーレット』)
国王である父を殺した敵への復讐を心に誓う王女のスカーレット(『果てしなきスカーレット』)[c]2025 スタジオ地図

そして『果てしなきスカーレット』では、父の仇への復讐に燃える王女が旅を通して自らの道を見出していく姿が描かれ、家族の喪失と再生がテーマとなる。これらの作品群は、伝統的な家族観が揺らぐ現代において、「新しい家族の形」を模索する細田守の思考の軌跡を示すものだろう。

G…Growth【成長】

思春期の葛藤と成長を描き、多くの共感を呼んだ『時をかける少女』
思春期の葛藤と成長を描き、多くの共感を呼んだ『時をかける少女』[c]「時をかける少女」製作委員会 2006

Cumulonimbus【入道雲】の項でも触れたように、成長は細田守作品の根幹を成すテーマ。『時をかける少女』や『サマーウォーズ』では、思春期の通過儀礼を通じて、若者が自分自身と向き合いながら社会との関係性を築いていく姿が描かれる。『竜とそばかすの姫』では、精神的・内面的な成長がより多角的に掘り下げられた。幼少期に母を亡くした喪失感から心を閉ざしていた主人公・すずは、仮想空間<U>で“ベル”として歌うことで自己表現を獲得していく。また孤独な存在“竜”との出会いを通じて、他者の痛みに寄り添う姿勢を学び、自らをさらけ出す勇気を得る。さらに仮想世界での成功と現実世界の孤独とのギャップを乗り越え、現実の問題にも向き合うようになる。

仮想空間<U>での出会いを通して、他者の痛みに寄り添い、成長していくすず/ベル(『竜とそばかすの姫』)
仮想空間<U>での出会いを通して、他者の痛みに寄り添い、成長していくすず/ベル(『竜とそばかすの姫』)[c]2021スタジオ地図

『おおかみこどもの雨と雪』では、13年間にわたる時間の流れのなかで、母と子それぞれの成長が丁寧に描かれる。『未来のミライ』では幼い子どもの視点から、家族の歴史とつながることで自己の位置づけを理解し、成長していく過程が描かれる。弟から兄へと立場が変わるなかでの葛藤や、未来から来た妹・ミライちゃん、過去の家族との出会いを通じて、他者への思いやりや責任感が育まれていく。

妹の誕生で両親の愛情を奪われたと感じたくんちゃんが、不思議な冒険を通して成長する(『未来のミライ』)
妹の誕生で両親の愛情を奪われたと感じたくんちゃんが、不思議な冒険を通して成長する(『未来のミライ』)[c]2018 スタジオ地図


『バケモノの子』では、少年期から青年期への移行に焦点を当て、怒りや力を冷静に制御することが心の成熟の証として提示される。この視点は『果てしなきスカーレット』にも通じており、復讐の念に取り憑かれた王女が愛や生きることの肯定性を軸に自己変容を遂げていく姿に重なる。すべての作品に共通するのは、「他者との関係性を通じて自己を見つめ直す」ことで成長が促されるという構造。細田守監督は、個人がどのように自己形成を遂げていくかを繊細に描き続けている。

復讐に執着していた王女が、愛と生きることに向き合う自己変容の物語でもある(『果てしなきスカーレット』)
復讐に執着していた王女が、愛と生きることに向き合う自己変容の物語でもある(『果てしなきスカーレット』)[c]2025 スタジオ地図

スタジオ地図の世界からひも解く『果てしなきスカーレット』特集【PR】

関連作品