山田裕貴と佐藤二朗、「『これはハズせないぞ』と臨んだ」映画『爆弾』のキャスティング秘話と怪演の真相を語る

インタビュー

山田裕貴と佐藤二朗、「『これはハズせないぞ』と臨んだ」映画『爆弾』のキャスティング秘話と怪演の真相を語る

「『お前が一番、言うことを聞かなかった。でもそれが類家っぽかった』と言ってくれました」(山田)

山田は自分のマインドが類家に似ていることをプロデューサーに見抜かれたという
山田は自分のマインドが類家に似ていることをプロデューサーに見抜かれたという撮影/ヤナセタマミ

――そうして迎えた本番で、どんな感じで対峙されましたか?

山田「その時は僕もさらに類家っぽく、とても頑固になっていました。監督からある時、『タゴサクの周りを歩きながら事件を解いてほしい』とリクエストがあったんです。でも僕は、“椅子から立つ”ことは、類家にとっては“リングから降りる”行為だと思っていたので、常にタゴサクと目を合わせ、一瞬も見逃さない状態で前に座っていたかったんです。ただそうなると代わり映えのしない画になってしまう、という監督の考えや気持ちもわかったので悩みどころでした。それでも、タゴサクと対決する時は絶対に真正面から動かずにいたくて。毎回『試しに立ってみてくれないか?』と監督から言われていました(笑)」

佐藤「そうだったんだ!?」

山田「類家が猫をかぶる用のアイテム、伊達メガネについても、『もっと早く外してください』とお話がありましたが、『タゴサクとのゲームが終わるまでは絶対に外さない』と。そうしたら打ち上げで、『お前が一番、言うことを聞かなかった。でもそれが類家っぽかった』と言ってくださいました」

佐藤「確かに僕も、セリフの分量がすごいので仮に監督がカットを割らず、観客が僕の芝居を正面から見ているだけになっても、(間が)持つ芝居をしよう、とは常に考えていましたね」

佐藤二朗演じるタゴサクは、名前以外の記憶は失っていると主張し、“霊感”で刑事の役に立つことができると申し出るが…
佐藤二朗演じるタゴサクは、名前以外の記憶は失っていると主張し、“霊感”で刑事の役に立つことができると申し出るが…[c]呉勝浩/講談社 [c]2025映画『爆弾』製作委員会

――実際に手足となって爆弾探しに都内を奔走する警官2人の物語が、取調室と“静と動の対比”となって物語を盛り上げています。

佐藤「伊藤沙莉さんと坂東龍汰君のコンビが、本当にすばらしかったですね。もちろん(台本を読んでいるので)彼らになにが起きるのか知っていましたが、その想像をはるかに超えてきて、すばらしくチャーミングな2人になっていました。きっと観客の胸にグッと迫り来るだろうと思って、それにもうれしくなりました。またほかの人々、例えば特殊部隊にしても本当に本物っぽかったし、それこそエキストラさんの芝居も含め、隅から隅まで皆さんがすばらしかったです」

山田「こういう大作系の映画って、どこかで嘘が漏れる瞬間、リアルっぽくない瞬間など、ほころびが見えてしまうこともあるのに、それが一切なかったんです。それは本当にスゴイと思いました」

佐藤「渡部さんが『みんな大事な最後の試合を戦ってる感じ』と言っていたとおりですね。やっぱり原作のおもしろさを知ってるから、『これはハズせないぞ』と臨んだ感がありますね」

「上手く行かなかった人たちの“せつなさ”のようなものも確かにあるかもしれない」(佐藤)

原作を読んで圧倒されたと語る佐藤二朗
原作を読んで圧倒されたと語る佐藤二朗撮影/ヤナセタマミ

――しかも本作は、なぜか観終わった時にせつなさが残ります。

佐藤「本作はサスペンスとしても一級品だし、人間の善悪を問う社会派の部分もあり、さらに上手く行かなかった人たちの“せつなさ”のようなものも確かにあるかもしれませんね。そういう要素すべてが詰まっているからこそのおもしろさ。タゴサクは決して赦されてはいけない人ですが」

山田「人間や世界をどう考えているかで、本作に対する感想が変わると思うんです。終盤でタゴサクが発信する動画のシーンがとても好きなんですが、それを見た多くの人がおもしろがって取る行動と、その後に焦って取る行動を見て、“なんて無責任なんだろう。でもいまはそういう世の中だ”と、そっちの意味でせつなくなりました」

佐藤「加えて僕が感じたのは、警察関係の一人ひとりすべての人の色気。仲間をなんとしてでも救いたい想い、無辜の市民を絶対に守らなければという想い。それらの悲壮なまでの覚悟が、色っぽいと感じさせるのかもしれませんね」


取材・文/折田千鶴子

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