山田裕貴と佐藤二朗、「『これはハズせないぞ』と臨んだ」映画『爆弾』のキャスティング秘話と怪演の真相を語る
「本当にすばらしい俳優が、僕の目の前に入れ替わり立ち代わり現れる。それが夢のように楽しい」(佐藤)
――類家、タゴサクを演じる際、お2人とも原作から強烈なインパクトを受けたということは、パッと人物像がつかめた感覚もあったのでしょうか。台本を手にして考えたことは？
佐藤「台本を手にした瞬間…渡部篤郎さんの言葉を借りれば、『本当にこの量のセリフ覚えたの？』という、そのままの感想です(笑)」
山田「あの量は相当です！」
佐藤「現場では、裕貴とどう演じるかという話をしたこともありました。俳優は直感やその時々の反射神経も非常に大事だよね、と。終わったあとで裕貴に『いまのいいよね。裕貴がこうしたから、俺もこうしたんだよ』と言葉を交わしたことも覚えています」
山田「しましたね」
佐藤「もちろんいろんな考え方があり、監督によっては俳優はなにも考えなくていい、という方もいる。でも、このタゴサクという役については、もう知恵熱が出るくらい相当考えました。ただ同時に、染谷将太、渡部篤郎、そして最後に山田裕貴という本当にすばらしい俳優が、僕の目の前に入れ替わり立ち代わり現れる。それが夢のように楽しいんです。だから現場に入る時は、考えてきたことを一旦すべて忘れてゼロにして、相手の俳優や演出と対峙する、目の前のことに集中する、という日々でした。本当に彼らとのセッションが楽しくて、毎日帰って妻に『おもしろいわ。楽しいわ』と言い続けていました」
山田「僕はタゴサクという化け物、佐藤二朗さんという化け物と対峙するので、現場では本当に一杯一杯でした。ただ類家については自分の感覚でわかるので…。類家は真心を持ったヒーローになりたかったけれど、世界を見渡せば人はいつでもどこでも死んでいるし、全員を助けられるわけがない。だからとりあえず目の前の、この事件に決着をつけて腹一杯飯を食う。それが一番だ、という感覚だけでやっていました。僕がとにかく守りたかったのは、類家とタゴサクが似た者同士だ、ということ。一歩踏み込んでしまったタゴサクと、“割に合わないからやらない”だけの類家は似ているんです」
「類家のセリフでタゴサクを圧倒しなければならない。そこが本当に心配でプレッシャーでしかなくて…」(山田)
――取調室での対決の撮影は、実際どんなふうに行われたのですか。食うか食われるかのハラハラした緊迫感を出すために、徹底的にリハーサルを繰り返したのか、それともまったく逆ですか？
佐藤「まず、裕貴は相当大変だっただろうな、と。だって目の前で清宮(渡部篤郎)とタゴサクとの長いやり取りを、後ろでペン回しをしながらずっと見ていなければならなかったわけですから。やがて自分がそこ(タゴサクと直接対決する席)に行く、というプレッシャーもあっただろうし。そしてリハーサルはだいぶ前にやりましたね」
山田「はい。1日だけでした」
佐藤「裕貴はもう少しやりたかったっぽいんだけど(笑)。実はリハーサルよりかなり前、本読み(台本の読み合わせ)があって、その段階で僕はすべてのセリフを覚えていったんです。普段は本読みでセリフを覚えていくなんてありませんが、監督もスタッフも共演者も聞いている前で、『今回はこれぐらいの意気込みで行きますよ』とプレゼンのつもりで。そのインパクトがかなり大きかったらしく、ハッとなった裕貴が『頑張ります！』となっていました(笑)」
山田「そうでした(笑)」
佐藤「そうしたらリハーサルでは、裕貴がセリフを全部覚えてきたんです。本番ではないのだから覚えていなくても問題ないのに。その時の類家のニュアンスが本当にすばらしかったので、僕はそれ以上リハーサルを重ねず、本番当日を楽しみたくなったんです。そこで『もう(リハーサルをしなくて)いいんじゃないですか？』と言って。もっとやりたそうな裕貴の気持ちもすごくわかったけれど、今回はそれ以上リハーサルで決め込みたくなかったんです」
山田「僕も本来はリハーサルが嫌いなタイプなんですよ。でもセリフ量は膨大だし、量だけでなく類家のセリフでタゴサクを圧倒しなければならない。そこが本当に心配で、プレッシャーでしかなくて…」
