【TOHOシネマズ 浜松篇】『千と千尋の神隠し』フィーバーを“人海戦術”で乗り切った!映画館にまつわる歴史&トリビアを大特集
今年、TOHOシネマズの全国17劇場がアニバーサリーを迎えることを記念し、現在TOHOシネマズ株式会社によるお客様への感謝を込めた“アニバーサリーキャンペーン”が実施中だ。MOVIE WALKER PRESSでは対象の17劇場のスタッフへの取材や当時の資料を徹底リサーチ!オープン当初の貴重な裏話、その映画館ならではの魅力やトリビアなどを深掘りする連載コラムを展開中。第16回は、創業25周年の「TOHOシネマズ 浜松」についてご紹介。
外資系シネマコンプレックスチェーンの4号店「ヴァージンシネマズ 浜松」として2000年11月20日に開業し、2003年11月15日に「TOHOシネマズ 浜松」に改称した当劇場。
1日の上映回数が最も多かった映画は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(20)など。チラシの減りが早かった映画は「エヴァンゲリオン」や「ONE PIECE」、「スター・ウォーズ」などの人気シリーズや、『花より男子ファイナル』(08)などのSTARTO ENTERTAINMENT(当時はジャニーズ事務所)タレントの出演作など。コンセッションでの人気メニューは「キャラメルポップコーン」。なんと全国No.1の購買率を誇るという。また、サイドメニューでは「スナックじゃが」も人気で、ポップコーンセットにプラスして購入されるお客様が多いそうだ。さらに、公開前に反響が多かったとして『アバター』(09)が挙げられる。当時は3Dメガネの準備や拭き上げ作業に追われ、大変だったという。
また、映画グッズを販売する「The Store」が今年6月にリニューアルされ、LED照明と新型什器を導入し、商品がより見やすくなった。劇場周辺の立ち寄りスポットでは、今年6月25日、当劇場が入っているザザシティに浜松初出店となったカレーチェーン店が人気。また、映画好きなら、当劇場から徒歩圏内にある「木下惠介記念館」はぜひ訪れてみたい。浜松市出身で日本を代表する映画監督の1人である木下監督の業績と生涯を紹介した記念館で、映画作品やゆかりの品などが常設展示されている。
伝説的な『千と千尋の神隠し』フィーバーを乗り越えたスタッフが語る、リアルな舞台裏!
今回は開業当時、オープニングスタッフとして携わっていた方に話を聞いた。開業前、静岡に初めて大きなシネコンができるということで、非常に楽しみにしていたという元スタッフ。「自分はコンセッションの担当だったので、その準備に向けた研修に参加しました。みんなで新しいことを作り上げていくという非常に有意義な時間を過ごすことができました。とはいえ、工期もギリギリだったこともあり、オペレーションの準備に十分な時間を取れず、ほぼぶっつけ本番で対応していたスタッフさんもいたと思います」と述懐。
「開業当時はそこまでお客様が詰めかける感じではなく、ショッピング目当てにいらっしゃる方がほとんどでした。映画館には、物珍しさで立ち寄られる感じだったかと。ただ、その後、開業後初めて迎えた夏に『千と千尋の神隠し』が公開され、1日に3,000人を動員するというすごいシーズンになりました。確かアルバイトもはっぴを着て、接客した記憶があります。その時、『この夏を超えるような興行は今後ないかな』と思いましたが、今年の夏に『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』がそれを超えてきたので、感慨深いものがありました」。
いまと違って『千と千尋の神隠し』の公開時は、オンライン販売はもとより、チケットの事前販売がなく、行列はチケットカウンターから建物の地下までいき、隣接していた百貨店の入口前まで続いていたとか。「1階から劇場のある3階にいるスタッフさんに無線で話しても距離が遠くて聞こえない状態でした。とにかく社員やアルバイトが総出でお客様の誘導に当たる“人海戦術”で乗り切るしかない感じでしたが、いまとなってはとてもいい思い出になりました」としみじみ語る。
なんと当時は入場ゲートがなく、スクリーンの入口にスタッフが立ってチケットのもぎりをしていたと言う。「そのため、フロア担当のスタッフさんは、常に声を掛け合いながら連携して対応していました。忙しい時は、2スクリーンのちょうど真ん中ぐらいのところに立って、動きながら同時にチケットをもぎる感じです。終わったあとは手がパンパンになっていると言っていました(苦笑)。映画が大ヒットすると売店も混みます。当時はホットドックのパンを地元のパン屋さんから買っていましたが、納品されたパンに包丁を使って自分たちで切れ目を入れ、ホットドッグを作っていました。できたホットドッグを箱に入れ、確かスクリーンの中でも売っていました」と当時を懐かしむ。
いまではチケットカウンターやコンセッションもかなりシステマチックになったが、当時はその分、働いているアルバイトも多く、スタッフ同士の交流も盛んだったと言う元スタッフ。
現在は社員である元スタッフに、仕事のやりがいについて聞くと「やはりお客様に喜んでいただけた時、声をかけていただいたりした時は、とても感慨深いですし、うれしいなと思います」と答えてくれた。「もちろん、自分だけではなく、アルバイトさんたちもそうだと思います。自分が現場にいた時は、そういう話をよくしていました。また、 “GOOD MEMORIES”を提供するという理念がありまして、それはお客様に対してだけではなく、働いている従業員も出勤したら必ずいい思い出を持って帰れるようにということでした。僕はその理念にすごく共感したし、そこは実践してこれたかなと思っています」。