ファンも言葉を失う…?宮舘涼太が『火喰鳥を、喰う』で怪演する強烈キャラから目が離せない
令和初となる第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞で大賞を受賞した原浩の同名小説を、『空飛ぶタイヤ』(18)などの本木克英監督と脚本の林民夫による鉄壁タッグで映画化した『火喰鳥を、喰う』(公開中)。信州の松本で暮らす若い夫婦のもとに戦死した先祖の日記が届くところから始まる本作は、謎と怪異、過去と現在が交錯し、現実と“もう一つの現実”の境界がしだいに曖昧になっていく先読み不能の驚愕ミステリーだ。
なにが起きているのか?どうなってしまうのか?まったくわからない状態で、観る者はその特異な世界へとズブズブと引きずり込まれてしまうが、そんな謎が謎を呼ぶ物語のキーパーソンが、映画単独初出演となるSnow Manの宮舘涼太が演じた北斗総一郎だ。果たして、北斗とは何者なのか?彼に血肉を注ぎ込んだ、ほかでは見られない宮舘の圧巻のパフォーマンスとはどんなものなのか?本稿を読めば、宮舘が渾身で作り上げた北斗を自分の目で目撃したくなるに違いない。
超常現象専門家を名乗るめちゃくちゃ怪しい北斗総一郎
信州の松本で暮らす久喜雄司(水上恒司)と妻、夕里子(山下美月)の一家代々の墓石から、太平洋戦争で戦死した先祖、久喜貞市の名前が何者かによって削られていたのが最初の異変だった。しかも同じ頃、生前の貞市が戦地のニューギニア島で書いた日記が夫婦のもとに地元紙の記者、与沢一香(森田望智)とカメラマンの玄田誠(カトウシンスケ)によって届けられるが、そこにはなんとしてでも生き延びようとする貞市の異様なまでの執念が刻まれていた。しかも、その“気”にやられてしまったのか、玄田が「久喜貞市は生きている」と呟き、夕里子の弟の亮(豊田裕太)が日記に「ヒクイドリヲ クウ ビミナリ」と書き込む常軌を逸した行動を取る。さらにその後も、玄田が正気を失って倒れたり、雄司の祖父、保(吉澤健)が突然姿を消すなど、不可解な事件が次々に起こり始める。
そんな不可思議な怪異の真相を見極め、おぞましい現象の連鎖を止めるために東京からやって来るのが夕里子の大学時代の知り合いで、超常現象専門家の北斗だ。常人にはない不思議な力と感覚を持ち合わせている彼は「『久喜貞市は生きている』という言葉がトリガーとなって、自分たちがいまいる現実とは別の、貞市が死ななかった新たな現実が生みだされてしまったのだ」と訴える。そして、元凶の日記を焼き払おうとする雄司と夕里子を制して、“解呪”のための儀式を執り行うことを提案するのだが、上から目線とぶしつけな物言いが鼻につくめちゃくちゃイヤな奴。言っていることの信憑性も怪しいし、なにを考えているのか実際のところはよくわからない男なのだ。
周囲を翻弄する一方できちんと状況説明をする重要な役割も果たす
ここまで書いたように北斗はめちゃくちゃクセのあるキャラだが、そんな彼を文字通り“体現”した宮舘のインパクトは登場シーンから強烈で、初めて会う雄司だけでなく、本作を観ている観客にもそのとんでもない胡散臭さを印象づける。
なにしろ、夫の雄司が隣にいるのに夕里子に向かって「変わらないね。相変わらず綺麗だ」と言ったり、「あなたはどこで夕里子と出会ったんですか?」と彼女を下の名前で呼び捨て。続けて、「東京を捨てて、故郷の手ごろな同級生と一緒になったわけか」といった失礼極まりない言葉を並べまくり、雄司を苛つかせる。
それでいて、嘘か本当なのかもわからない独自の持論をパワフルなマシンガントークで展開。その場を立ち去りたい雄司の耳を傾けさせ、同時に貞市の生への執着が侵食し、現実が変容していくという本作の状況を説明する役割もきちんと果たしているのだから驚く。