ハン・ソヒ&チョン・ジョンソのシスターフッド・ノワールからハ・ジョンウの監督作も!第30回釜山国際映画祭を沸かせた日本未公開作品をご紹介

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ヤクザのボスになりたくないアウトローたちの仁義なき譲り合い?!爆笑コメディ『Boss』

『Boss(原題:보스)』の舞台は1990年代後半のある港町。固い結束と抜群の戦闘力で街を牛耳る「食口派」の若手組員スンテ(チョ・ウジン)、パンホ(パク・ジファン)、ガンピョ(チョン・ギョンホ)は、ナンバー2を争うライバルであり兄弟分だったが、時代は流れそれぞれの生き方も変化。腕利きの中華料理人となったスンテは、愛娘の「ヤクザなんて恥ずかしい」という一言で完全に足を洗う決意をする。ところがボスが急死してしまい、3人は次期トップの座を“譲り合う”前代未聞の死闘を繰り広げていく。

韓国映画らしいアクションコメディ『Boss』
韓国映画らしいアクションコメディ『Boss』[c]釜山国際映画祭

上映後のGVでは、チョン・ギョンホを除いた主要キャストと、スンテの店で出前持ちをする弟分約のイ・ギュヒョンが参加し、ネタバレ全開のトークがスタート。上映中終始会場から爆笑が巻き起こるのに満足げな様子だった。チョ・ウジンは、本作がちょうど『ハルビン』(24)が終わってすぐの撮影で、あまりのトーンの違いに戸惑っていたという。彼は「『ハルビン』で演じたサンヒョンは深い悲しみや闇、自責の念を胸に閉じ込めた役だったので、上手く表現できるかかなり悩みました。そして『Boss』には、そのトーンが残ってはいけない。自分自身で手を握りながら、『ああ、ウジン!こうやって学びながら俳優としても人間としても限界を超えていける』と言い聞かせました。思えば本当に幸福な経験です。たとえばジャージャー麺とチャンポンなら、どっちも美味しいから選べない時があるんじゃないですか。今回はジャージャー麺、今度はチャンポンのような役柄でした」と、何でも演じ分ける俳優ならではのコメントを残した。GV終了後、キャスト陣によるお見送り会も急遽実施するなど、サービス満点の現場だった。

俳優を夢見る若者のほろ苦い青春ドラマ『AUDITION 109(原題)』

『AUDITION 109(原題:짱구)』は、俳優を夢見て上京しオーディションに挑戦し続ける青年チャングの苦労と初々しい物語をコミカルに描いている。偶然にも、主演チョン・ウが高校時代の経験をもとに自ら脚本を書いた初主演作『風 wish』の役名が“チャング”だった。“チャング”は韓国でのアニメ「クレヨンしんちゃん」の呼び名で、しんちゃんのように後頭部が飛び出していたチョン・ウの子どもの頃のあだ名だそうだ。『AUDITION 109』では役者を目指すチャングの『風 wish』のその後のストーリーが描かれる。

俳優なら誰でも共感できる?『AUDITION 109』
俳優なら誰でも共感できる?『AUDITION 109』[c]釜山国際映画祭

オープントークにはチョン・ウ、シン・スンホ、チョン・スジョン、ヒョン・ボンシクらが登場。全員が『風 wish』に魅了されたファンとして撮影に臨み、またチャング同様オーディションの悲喜交々を知る俳優たちなので、作品への愛情は人一倍だった。悪役として強烈な印象を残したドラマ「D.P. -脱走兵追跡官-」シリーズが初めてのオーディションだったと語るシン・スンホは「チョン・ウ先輩と一緒に『風 wish』の続編に出演できてとてもうれしいです。愉快でおもしろ映画なので期待してほしい」とアピール。

『AUDITION109』に登場したチョン・ウら俳優陣
『AUDITION109』に登場したチョン・ウら俳優陣[c]釜山国際映画祭

本作でチャングの魅力的な彼女を演じるチョン・スジョンは、「監督はこの役について『男たちはみんな、人生にヒロインのような人が1人はいる。そのヒロインのようなキャラクター』と説明してくれました。何を考えているのか本心が分からないけれど、チャングに会って純粋だった時代に戻る。その部分に気を配りながら演じました」と話した。

あのカルト人気監督が『地球を守れ!』に惚れ込みリメイク!『Bugonia』

最後に、いまなお熱く支持される伝説の韓国映画をリメイクした作品『Bugonia(原題)』をご紹介しよう。物流センターで働くテディとその従兄弟ドンは、会社の代表ミシェルを誘拐しようと目論む。2人は、ミシェルがひそかに地球へ襲来した宇宙人であることを知っており、彼らの侵略を食い止めるべく作戦を決行したのだった。ところがミシェルは断固として自分が宇宙人であることを認めない。警察の追っ手も迫り、テディたちは思いも寄らない事態へ陥っていく。

ヨルゴス・ランティモス監督のアイコン、エマ・ストーンが活躍を見せる『Bugonia』
ヨルゴス・ランティモス監督のアイコン、エマ・ストーンが活躍を見せる『Bugonia』[c]釜山国際映画祭

本作は『1987、ある闘いの真実(17)』などのチャン・ジュナン監督が手がけた『地球を守れ!』(03)を、『哀れなるものたち』などを手がけたヨルゴス・ランティモス監督がさらに独創的に再構築したダークコメディとなっている。上映後には、チャン・ジュナン監督とともに「『地球を守れ!』が人生の映画」だと愛情を示すイ・ジェフン、CJ EMNプロデューサーが登壇するスペシャルトークが実現。

コアな映画好きとしても知られるイ・ジェフンが登壇したトークイベント
コアな映画好きとしても知られるイ・ジェフンが登壇したトークイベント[c]釜山国際映画祭


チャン・ジュナン監督はリメイクについて「同じDNAなのに、何かが操作され変容して、すごい突然変異が現れたんだなと思いました。格好良かったです!22年前の映画なのに、いま観てもそんなに古い話ではなく、同時代のなかにしっかりある物語に感じられました」と満足げ。イ・ジェフンは「劇場公開当時は、多くの方がクリエイターとしての夢を膨らませていた時期だったと思います。そんななか『地球を守れ!』は、まさに衝撃に次ぐ衝撃を残し、考えずにはいられない作品としてずっと心に残りました。それは私だけでなく、ご覧になった方々、批評家の皆さんも同様です。ハリウッドでリメイクされるという知らせを聞いたとき、すごく胸が高鳴りました。でも驚きはしなかったんです。『やはりハリウッドも見る目がある』と(笑)。その後、監督やキャストの知らせを聞き、さらにとんでもない作品になるだろうと思いました」と、原作への愛情ものぞかせた。

取材・文/荒井 南


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