アクション、入道雲、食事シーン…キーワードでたどる細田守監督作の世界【スタジオ地図「A to Z」連載第1回】
D…Dualism【二元論】
『サマーウォーズ』や『竜とそばかすの姫』のグローバルに広がるインターネット仮想空間と、ローカルな田舎の日常生活。『バケモノの子』では渋谷(現実)と渋天街(異界)、『果てしなきスカーレット』では現実世界(16世紀末デンマークと現代の日本)と≪死者の国≫といった具合に、細田監督は2つの対照的な世界をよく設定する。『おおかみこどもの雨と雪』の「おおかみと人間、どちらで生きるか」など、二択を迫るドラマ展開も特徴的。演出面でも「二股の分かれ道」は有名な細田モチーフ。だが単なる平板な二者択一ではなく、主人公が自ら選び取った選択から、新たな世界の広がりを獲得していくのが細田流だ。
E…Eat Meals【食事シーン】
フード映画としても名高い細田作品。登場人物たちの親密な関係を表す重要な局面で食事シーンが登場する。『竜とそばかすの姫』では、舞台となる高知県の郷土料理でもあるカツオのたたきが家族の絆をつなぐアイテムとなる。そして、すずと親友ヒロちゃんが実在の食堂(集落活動センターふれあいの里柳野)でお昼を食べるシーン。『バケモノの子』では熊徹と九太の師弟関係の証となる卵かけご飯や、母の愛情を表すハム入りオムレツなど。『おおかみこどもの雨と雪』で印象的なのは、花がおおかみこどもの「彼」に作ってあげる焼き鳥(コップに入れたタレを付けて食べる長野県上田市に古くから伝わる「美味だれ焼き鳥」)や、逆に「彼」が作ってくれるうどんなど。『時をかける少女』では真琴が魔女おばさんにお土産として買っていく、吉祥寺に実在するパティスリー「アテスウェイ」のケーキも登場する。
単においしそうというだけではない、人と人のつながりや温もりを象徴する、生きる営みとしての細田監督の深いこだわり。大家族で食卓を囲む『サマーウォーズ』の「いちばんいけないことはおなかがすいていることと、独りでいることだから」という栄おばあちゃんの言葉に、食事についての細田哲学の真髄が凝縮されているようだ。
文/森直人