【ネタバレなし】ダメ男すぎるレオ様、異常性癖な軍人、謎のセンセイ…PTA監督らしい“温かみ”も光る『ワン・バトル・アフター・アナザー』をレビュー
ビスタビジョン撮影による美しすぎるカーアクションは必見!
ボブ以外の登場人物もキャラが立っていて、ベニチオ・デル・トロ演じる、ウィラの空手のセンセイ、セルジオは飄々とした存在感を漂わせつつも、何度となくボブを窮地から救う頼もしい男。ウィラも母の血を継いだのか、芯のある少女で魅力を放つ。しかし、誰より印象に残るのは、『リコリス・ピザ』に続いてのアンダーソン作品への出演となるショーン・ペンがふんしたロックジョーだ。筋金入りの保守軍人で、白人至上主義の秘密結社に入ることを目指している。一方で、ボブの妻に銃を突き付けられ、拘束された際の勃起体験が忘れられず、少々異常な性的志向に走ってしまう強烈キャラ。憎々しい敵役でもあるが、こちらも笑いの見せ場をさらっていく。
ボブのバトルは、ロックジョーの部隊の急襲からの逃走を皮切りに、どんどん激しくなっていく。ウィラのサポートを受けての逃走シーンはスリリングだし、その後には銃撃戦もあればカーチェイスもある。とりわけ、起伏の激しい丘陵地帯でのカーアクションは絵的な美しさもあり、目を奪われること必至だ。
不法移民や、行き過ぎた保守化などのアメリカのいまが見えてくるという点でも興味深いが、それらを声高に訴えず、あくまでエンタテインメントのなかに溶け込ませている点がイイ。なにより、壮絶なバトルを経験するボブやウィラの変化というドラマ面に強く引き付けられる。現実社会には不穏が流れ込んできてはいるが、それでも希望は見えてくる。アンダーソン作品らしい温かみが、そこには確かにあった。とにもかくにも、『ワン・バトル・アフター・アナザー』は今年観るべき、優れたエンタテインメント映画。怒涛のバトルに備えよ!
文/相馬学
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