記念すべき30回目の釜山国際映画祭、イ・ビョンホン、ハン・ヒョジュら豪華スターが登場したオープニングセレモニーを現地レポート!

記念すべき30回目の釜山国際映画祭、イ・ビョンホン、ハン・ヒョジュら豪華スターが登場したオープニングセレモニーを現地レポート!

世界の映画ファンに芸術の秋の訪れを告げるアジア最大の映画の祭典、第30回釜山国際映画祭が9月17日よりスタートした。例年より1か月近く早い開幕となった今年は招待作が241作品と、昨年より17作品増加。イベントなどの特別上映作を含めると、全体で328作品と大規模となった。国際映画祭の華とも言えるコンペティション部門「釜山アワード」も新設され、14作品を選出が競い合う。映画界や文化界の著名人が厳選した作品を上映する新設の特別上映部門「カルトブランシュ」では、ポン・ジュノ監督、カン・ドンウォンといった映画人が名を連ねた。また、全世界を熱狂させたNetflixアニメ「K-POPガールズ!デーモンハンターズ」(25)を“Sing along上映”と題して応援上映を開催するなど、映画業界のトレンドを押さえつつ、アニバーサリーイヤーにふさわしいイベントが目白押しだ。

例年以上に世界の著名な映画関係者が参加するが、日本からは渡辺謙、西島秀俊、岡田准一、小栗旬、吉沢亮らが参加。日本で劇場公開中の主演作『8番出口』も好調な二宮和也は、9月19日に日本人俳優として初めて人気プログラム「アクターズハウス」に登場し、話題を振りまいている。アイドル活動と並行し俳優としても高い評価を得てきた二宮和也が、若く熱心なシネフィルを擁する釜山国際映画祭の観客に応えるべく深い話を繰り広げていた。

「アクターズハウス」で自らの俳優人生を語った二宮和也
「アクターズハウス」で自らの俳優人生を語った二宮和也[c]2025 映画「8 番出口」製作委員会

16日の開会式では、今年のオープニング作品『NO OTHER CHOICE(原題:어쩔수가없다)』(2026年3月公開)で『JSA』(01)『美しい夜、残酷な朝』(04)の中の一編『cut』に続いてパク・チャヌク監督とタッグを組んだイ・ビョンホンが単独司会を務めた。厚みのあるパールホワイトのタキシードに身を包み、厳粛な面持ちは30周年の重みを体現しているようだ。「1991年にデビューして、1995年に初めて映画に参加しました。そして今年が私も俳優生活30年目です」と感慨に浸り「その私が司会をしているなんて現実じゃないような感じがします」と栄光を噛みしめた。第一次韓流ブームを牽引し日本のファンを多数獲得するのに一役買いつつ、演技派としても着実にその名を上げた彼こそアニバーサリーイヤーに相応しい。スクリーンでその時代の映像が映し出されると、「ウォンビンみたいな姿が出てきましたね」とジョークで会場を和ませながら、続けて映画と映画ファンへの愛に満ちた言葉で語った。

【写真を見る】30回目のアニバーサリーにふさわしい純白のタキシードで登場した、イ・ビョンホン
【写真を見る】30回目のアニバーサリーにふさわしい純白のタキシードで登場した、イ・ビョンホン撮影/Lee Junghee

「30年前、釜山で小さな夢が生まれ、映画祭となりアジアのあらゆる場所で成長しました。この旅路をともにしてきたすべての人、初めてこの地を訪れたすべての人を歓迎します。実はここに自分が立っていることを現実とは思えません。孔子の『齢30にして立つ』という言葉がありますが、つまり30歳にしてようやく自らの足で立てるということです。バルザックはこう言いました、『30歳は人生の昼間』だと。そのせいか、私は30年を経てようやく俳優になれたような気がします。でも本当に驚くべきことは、私と同じ時期に釜山国際映画祭が始まったことです。私たちはともに大きく成長しました。ここに初めて来た当時、私も観客の皆さんと同じようにどんな映画が上映されるのか客席で目を輝かせていました。もしあのステージに立てたら、私の心は興奮と期待でいっぱいになるだろうな、と。そして私は今日、ここに立っています。時間は私たちを様々な形で変えますが、映画を前にして抱く興奮は、当時も今も全く同じです。これは映画が教えてくれたことでした」。

カメリア賞を受賞したシルヴィア・チャン
カメリア賞を受賞したシルヴィア・チャン撮影/Lee Junghee

そして、映画産業で女性の地位を高め、先駆的な女性映画人の文化芸術への寄与を広く知らしめるせるために昨年より創設されたカメリア賞は、台湾出身の俳優、監督、プロデューサー、脚本家など幅広く活躍してきたシルヴィア・チャンへ贈られた。彼女は「意味のある賞をもらえて心から感謝します。挑戦の瞬間が、むしろ私を前に進めた原動力でした」と受賞の喜びを語っている。釜山の市花であり、シャネルの創始者ガブリエル・シャネルが愛した花である椿=カメリアになぞらえられたこの賞。シルヴィア・チャンもまた、この椿の花言葉“情熱と愛”を想起させる感謝の言葉を口にした。今回はスペシャルトーク「カメリア賞受賞者、シルビア創意の映画と人生」も開催される。

毎年アジア映画産業と文化発展において最も著しい活動を見せたアジアの映画人や団体が授賞する「今年のアジア映画人賞」は、ジャファール・パナヒ監督に授与された。パナヒ監督は「この30年間、韓国は自由、映画の自由のために絶えず努力してきた。 これは終わりではない。 映画を作る表現の自由のために挑戦し、最後まで進まなければならない。この賞はその戦いの戦線にあるすべての独立映画に捧げる」と“自由”を強調して感想を述べた。パナヒ監督は世界三大映画祭すべてで最高賞を獲得している名匠であるにもかかわらず、政治批判も辞さない堅実な映画作りのため、自宅での拘束、軟禁、海外渡航禁止と受難の監督人生を送ってきた。第1回釜山国際映画祭に長編デビュー作『白い風船』)95)から参加するなど絆が強い釜山国際映画祭について「監禁などで長い間釜山に来られなかったが、1回でもアジア最高の映画祭になる底力があると思った」と称えた。2017年に亡くなった故キム・ジソクプログラマーは、出国禁止でイランを離れることができないパナヒ監督をイランまで訪ねてきたそうだ。映画愛は人間の自由と尊厳を守った根幹にあるということを、パナヒ監督の来し方から見せつけられる思いがした納得のアジア映画人賞だった。

「今年のアジア映画人賞」に輝いたジャファール・パナヒ監督
「今年のアジア映画人賞」に輝いたジャファール・パナヒ監督撮影/Lee Junghee

終盤には、今年新設されたコンペティション部門の審査員長であるナ・ホンジン監督、コゴナダ監督、俳優のハン・ヒョジュらが登場。今年期待する作品についてイ・ビョンホンから話題を振られたナ・ホンジン監督は「特に期待はしてなくて、“仕方がない(NO OTHER CHOICE)”から見せて、と来ました」と、開幕作のタイトルに絡めてコメント。「審査員は負担になるからやりたくない」という本心を茶化した言い回しだったが、不意打ちの冗談でイ・ビョンホンを慌てさせる一幕となった。最後に登壇した『NO OTHER CHOICE』チームのパク・チャヌク監督は、今日の司会進行ぶりを尋ねてきたイ・ビョンホンに対し「これからは俳優に集中してください」とジョークでフォローし、会場を沸かせた。

「匿名の恋人たち」の月川翔監督と登場したハン・ヒョジュ
「匿名の恋人たち」の月川翔監督と登場したハン・ヒョジュ撮影/Lee Junghee

華麗なセレモニーで開幕を迎えた一方、先月の記者会見でチェ・ハンソク執行委員長は「現在、韓国映画が危機に瀕していることは誰もが知っている。記念碑的でありながらも過去最高、最多を記録する今年、韓国映画の危機を克服して再飛躍を目標としたい」と話していた。今年の釜山国際映画祭は、今なお夏の暑さが残る地元をさらに盛り上げる祝祭であると共に、もう一度映画大国の名を取り戻そうという挑戦の10日間となる。


取材・文/荒井 南


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