『ワン・バトル・アフター・アナザー』初のビスタビジョン上映会後のQ&Aを現地レポート!ディカプリオ、デル・トロらが撮影秘話を語った夜
9月7日にDGA(全米監督協会)にて行われた試写でスティーヴン・スピルバーグが大絶賛し、翌日9月8日にTCLチャイニーズ・シアターIMAXでプレミアが行われて以来、プレスからの絶賛評が続いている『ワン・バトル・アフター・アナザー』(公開中)。ポール・トーマス・アンダーソンによる長編監督作の記念すべき10作目にして、およそ1億3000万ドル(約192億円)の製作費をかけた大作映画だ。元革命家のボブ・ファーガソン(レオナルド・ディカプリオ)の前に、宿敵スティーヴン・J・ロックジョー大佐(ショーン・ペン)が現れ、最愛の娘ウィラ(チェイス・インフィニティ)を連れ去られてしまう。ボブは、謎の空手家センセイ(ベニチオ・デル・トロ)らの助けを借りて、ウィラを救い出すための闘争に向かう。
プレミアから一夜明けた9月9日、バーバンクのワーナー・ブラザーズ・スタジオ内にある劇場で、ビスタビジョンによる初の上映会が行われた。ビスタビジョンとは主に1950年代に用いられた35mmフィルム横走りの撮影方式で、より鮮明な映像を収めることができるが、専用カメラの汎用性が乏しく、60年代以降はほぼ使われていない。この日はビスタビジョンで本作を観るため、映画業界の著名人がたくさん試写に訪れた。クリストファー・ノーラン、マイケル・マン、ライアン・ジョンソン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ダニエルズ、ブライアン・クランストン…レセプションでは、主演のディカプリオと旧交を温めるイニャリトゥ、アンダーソン監督とセルフィーを撮るクランストンの姿などが見られた。上映後の興奮冷めやらぬなか行われたアンダーソン監督、主演のディカプリオ、ペン、デル・トロ、インフィニティらによるQ&Aの抜粋をお届けする。
※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。
「ポールが私にどんな役を依頼しても、喜んで引き受けた」(レオナルド・ディカプリオ)
――この作品の脚本はどのように書かれたのでしょうか。
アンダーソン監督「この脚本は長い間書き続けていて、一部は1999年とかなり昔に書いたものです。その後、一度は書き止めて、また書き始め、また書き止めて、の繰り返しでした。それでも、7、8年ほど前からかなり真剣に取り組み始め、徒然と書き留める以上のことを行うようになりました」
――レオ(ディカプリオ)さんに質問です。あなたは仕事をしたい監督に対して、自ら行動を起こすと以前おっしゃっていました。もちろん、アンダーソン監督とは旧知の仲でしょうが、どのように意思表示されたのでしょうか?直接メールを送ったのでしょうか?それとも代理人や共通の友人を通じてでしょうか?
ディカプリオ「小さな小人たちが街中を探し回って伝えてくれるのです…。どうやって小人を作るのか?それはわかりません(笑)。ええと、実はとても単純なことです。私はポールの作品のファンでした。彼は、ご存知のように、世代を代表する才能の持ち主です。彼の言葉が持つ想像力、ユーモアの極限を追求する姿勢、そして現代社会を鋭く映し出す時代性。このような作品であれば、ポールが私にどんな役を依頼しても、喜んで引き受けたでしょう。正直なところ、本作の現代社会を象徴するテーマに強く惹かれました。革命家だった男が娘との絆を取り戻そうとする姿に心打たれました。ボブは携帯電話すら持たず、娘との間には世代を超えた溝が横たわっています。ただいい父親になろうとする彼の努力は、どこへ行っても失敗に終わります。どうすればいいのかわからないのです。そして、彼の過去が再び彼を苦しめる。この構想は本当にすばらしかった。ですから、私はこの機会を逃さず飛びついたのです」
――アンダーソン監督、先日、スティーヴン・スピルバーグ氏があなたとQ&Aセッションを行った際に、この映画はスタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』を彷彿とさせる、とおっしゃっていました。それはあなたにとって驚きでしたか?喜ばしいことでしたか?この映画に直接的な影響を与えた作品なのでしょうか。
アンダーソン監督「いえ、多くの人々がキューブリックの映画と似たようなことをしようとして失敗していると思います。ですから、真似してはいけないのです。しかし、私たちみんながキューブリックから学んだのは、人間の本性の不条理さを笑わせる能力だと思います。私たちはそれを受け継いでいます。しかし、決して、決して真似しようとしてはいけません。失敗するだけです。少しだけ借りて、それを取り入れようとはしますが、自分のやり方でやらなくては。おそらく、今作でその一部が成功している理由の一つは、"クリスマス・アドベンチャーズ ・クラブ(作中に登場する秘密組織)"を演じる俳優たちがとても優れた役者たちであり、彼らが熱心にクソみたいなことを真剣に取り組んでいるからだと思います(笑)。とてもおもしろかったです」
「ポールが持っている特質の一つは、俳優たちが役を作り上げるプロセスを心から楽しんでいること」(ベニチオ・デル・トロ)
――ショーン(・ペン)さん、あなたはキャリアを通じて実に多様な役柄を演じてこられました。その中にはご自身に近いものもあれば、そうでないものもあったでしょう。ご自身の世界観とはおそらく正反対とも言える人物を演じるのは、どのような体験なのでしょうか。
ペン「正反対の人物を演じることは俳優の本質です。例えば“道徳”という言葉を“殺傷能力”に置き換えたらどうなるか――という私の遊び心を、多くの人は理解してくださるでしょう。そういうことを考えるのは楽しいものです。どんなものでも“能力”には共通点があり、自分が持っている“能力”に調整を加えることで、ほかのあらゆる要素にも驚くほど影響し、新たななにかが生まれるからです」
――ベニチオ(・デル・トロ)さんは、アンダーソン監督作品への出演は2度目となりますが、彼の演出の特別なところはどこだと思いますか?また、レオさんとの共演はいかがでしたか?
デル・トロ「実は、私は参加することが決まってからも時間がほとんどなく、レオやポールが既に撮影を始めていたなかでの参加でした。なので、なにが起こるかまったく予想がつきませんでした。レオはカメラの外では非常にユーモアのある人です。カメラの前でもおもしろいですが、カメラの外では特に笑わせてくれます。そしてポールも笑いをこよなく愛する人なので、本当にリラックスした楽しい雰囲気のなかで、様々なことに挑戦したり、アイデアを出し合ったり、思い切って試すことができました。彼は私に様々な提案を自由にさせてくれて、本当に喜びに満ちた時間でした。ポールが持っている特質の一つは、俳優たちが役を作り上げるプロセスを心から楽しんでいることです。それは、俳優にとってもすばらしいことでした」