少女時代クォン・ユリが語る、『侵蝕』で演じた複雑なキャラクターができるまで「撮影現場でアイドルとしての経験が役立っている」
「『アイドルだからきれいに見せなきゃ』と食事をガマンしたりすると、うまくいかないタイプなんです(笑)」
ミンという人物を成立させるため、外見的な工夫も徹底した。「ミステリアスなキャラクターなので、目つきや表情が簡単に読み取れないほうがいいと思いました。だから前髪で額を隠したり、メイクも暗めのトーンで肌のきめを粗く見せたりしました。生活力があって芯の強い人物像を体現するために、肉体的にも強さを持たせたいと考えて、体重を5kgほど増やしてずっしりとした印象を作りました」。
増量は彼女自身の発案だったという。「後半には取っ組み合いの場面もあって、ミンとヘヨンが拮抗してこそ緊張感が生まれる。だから最初に見たときにパワーを感じられるビジュアルが必要だと考えたのです」。スリムな体型が重視されるアイドルとしてのキャリアが長かったから、増量は難しかったのではないか。そう尋ねると、意外な答えが返ってきた。「特に大変なことではありません。体型を状況に合わせて変えるのは、基本、ベーシックなこと。作品が好きで、やりたいキャラクターに没入してシナリオを読み込んでいくうちに、体が変わるんです。自然とたくさん食べて体重が増える。逆に『アイドルだからきれいに見せなきゃ』と食事をガマンしたりすると、うまくいかないタイプなんです(笑)」
物語の鍵を握る“侵入者”ヘヨンを演じたのはイ・ソル。「悪い刑事~THE FACT~」(18)、「悪魔がお前の名前を呼ぶ時」(19)などでキャリアを重ねる個性派俳優だ。「イ・ソルさんはとてもエネルギッシュで、私が想像していたよりずっと明るくはじけていました。軸がしっかりとした俳優で、すごく魅力的でした」と評する。女性同士が互いに張り合う演技はこれまで経験がなく、「実際にエネルギッシュでフレッシュな俳優と呼吸を合わせることで、私にとってリアクション演技を学ぶ大きな助けになりました。ヘヨン役をイ・ソルさんが演じてくださって、本当によかったです」と感謝を込めた。
「ガールズグループでの活動を通じて、リーダーシップや協調性が身についた」
インタビューを行ったのは、ちょうど少女時代デビュー18周年を迎えた日だった。その少し前には、メンバーが集まってティファニーの誕生日と少女時代のデビュー記念日を祝う写真をSNSや自身のYouTubeチャンネルで公開している。「18周年、おめでとうございます」と声をかけると、「カムサハムニダ!」と満面の笑顔になった。『侵蝕』の製作中には、メンバーから撮影現場にキッチンカーの差し入れが届いたり、「役にピッタリ」「おもしろそう」といったメッセージをもらったりしたという。
「メンバーたちが活動する姿に、互いに大きな影響を受けています。例えば、私はいち早く演劇の舞台に立ったのですが、それを見て『自分も演劇に挑む勇気をもらった』というメンバーもいました。身近で親しい存在だからこそ、『私も同じことをやったら、こんなふうにできるかな』とイメージできるんです。最近はスヨンがハリウッドで新しい挑戦をしたので(映画『バレリーナ: The World of John Wick』に出演)、私もいつか『アベンジャーズ10』に出られるかも…なんて想像してみたり(笑)」
俳優として活動するうえで、少女時代の経験が役立っているかという問いには、「あまり動揺しないこと」と答えた。「どんな状況でも取り乱さない。多くの経験を積んだ分、現場で余裕を持てるようになりました。俳優は、撮影現場で演技だけでなくリーダーシップや協調性も求められますよね。ガールズグループでの団体活動を通じて、そういうスキルを身につけることができたと思います」
少女時代のメンバーとしてデビュー以来、ドラマ「被告人」(17)や映画『ドルフィン(原題:돌핀)』(24)などに出演し、俳優としてのキャリアを積んできたクォン・ユリ。シリアスなサスペンスを経て、次に挑みたいジャンルはラブコメディだという。「20代後半から、私のアイデンティティを作ってくれた作品がいくつかあります。日本のドラマ『ホテルコンシェルジュ』は、ストーリーも俳優さんも大好き。演じてみたいのは『花より男子』や『のだめカンタービレ』のような、ヒューマニティあふれるラブコメディです。いつか日本の作品にも出られたらいいですね」
取材・文/桑畑優香