韓国2大ベテラン女優が共演した『最後のピクニック』の魅力とは?「世代によって共感できるポイントがある」

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韓国2大ベテラン女優が共演した『最後のピクニック』の魅力とは?「世代によって共感できるポイントがある」

韓国であらゆる世代の人々の心をつかみ、小規模公開の独立映画としては異例の大ヒットを記録した『最後のピクニック』(9月12日公開)。本作の公開を記念したトークイベントが8月25日に実施され、映画研究者の崔盛旭と映画評論家の石津文子が登壇。ウンシム役を演じたナ・ムニとグムスン役のキム・ヨンオクの魅力や物語の背景など、本作の魅力を多角的に語り合った。

ソウルで暮らしていたウンシムは、“宝島”と呼ばれる故郷・南海に60年ぶりに帰り、親友のグムスンのもとへ身を寄せる。忘れていた記憶を一つ一つ思い出し、懐かしさに心を躍らせるウンシムだったが、彼女がこの地を離れていたのには理由があった。やがて明かされていく、彼女の未来を変えてしまった16歳の頃の出来事と波乱に満ちた人生。そしてウンシムとグムスンは“最後のピクニック”へと出かけることに。

8月25日に行われたトークイベントに、映画研究者の崔盛旭と、映画評論家の石津文子が登壇
8月25日に行われたトークイベントに、映画研究者の崔盛旭と、映画評論家の石津文子が登壇

崔は映画を観た感想として「高齢者たちの姿を通して、いろんな面において、いまの韓国社会のリアルを感じました。後から色々考えさせられるような作品です」と語ると、韓国で独立映画の興収記録を塗り替える大ヒットとなったことに言及。「家族全員が一緒に観るような受け止められ方をしたようです。それぞれ世代によって想いや共感できるポイントがあるわけで、すごく評判の良い映画でした」と現地での反応を紹介。

さらに「いま80歳を超える方たちは、韓国にとって現代史そのものといえる存在。植民地時代、朝鮮戦争、軍事独裁時代、そして民主化のすべてを経験してきた方たちですから。特に女性や母親は子どもたちのために自分を犠牲にし、我慢することが美徳とされ、それを強いられてきた世代で“我慢と犠牲の世代”とも言われています」と、ウンシムやグムスンの世代について説明した。

【写真を見る】半世紀以上も走り続ける、韓国屈指の大ベテラン女優2人の驚きのエピソードとは
【写真を見る】半世紀以上も走り続ける、韓国屈指の大ベテラン女優2人の驚きのエピソードとは[c]2024 LOTTE ENTERTAINMENT & ROCKET FILM All Rights Reserved. 

一方で石津は韓国国内で記録的な大ヒットとなった『国際市場で逢いましょう』(14)を引き合いに出し、「ウンシムとグムスンはこの映画の主人公と同じぐらいの年齢だと思います。本作をこの女性版として考えると、2人が本当に苦労したことがわかります」と語る。すると崔は「ウンシムは50代の息子の面倒をずっと見て、家まで売って子どもに財産を渡す。最初に観たときはショックを受けましたが、この映画が描く“死”を象徴的に捉えると、とても韓国的なものを感じることができました」と分析。

また、本作の原題のアイデア元となった詩人チョン・サンビョンの「帰天」という詩に触れつつ「その詩の内容こそ、“人生とはピクニック”というものでした。この映画全体が人生そのものを描きだし、それを象徴するのがラストシーンと言えるかもしれません。『国際市場で逢いましょう』はなんだかんだでハッピーな映画なので、その点では大きく違っていますね」と語る。

世代を超えて支持され、韓国では高齢者福祉について考えるきっかけにもなったとか
世代を超えて支持され、韓国では高齢者福祉について考えるきっかけにもなったとか[c]2024 LOTTE ENTERTAINMENT & ROCKET FILM All Rights Reserved. 

さらに、日本と比較して高齢者福祉が行き届いていない韓国で、本作をきっかけに高齢者をテーマにした討論会が行われるようになったことや、認知症予防のために詩を書くというキャンペーンがあること。主題歌である「Grain of Sand」を歌うイム・ヨンウンが“おばあちゃんのBTS”と呼ばれるほど絶大な人気を集めていることや、ナ・ムニとキム・ヨンオクが共にイム・ヨンウンの大ファンであることなど次々と話題が広がっていく。

そして、本作で親友役として共演した韓国を代表する2大女優についての話に。ウンシム役のナ・ムニは1941年生まれで、1960年代からテレビドラマを中心に活動。キム・ジウン監督の『クワイエット・ファミリー』(98)で映画に初出演を果たして以来、映画やテレビドラマ両面で数多くの作品に出演し高く評価されてきた大ベテラン。グムスン役のキム・ヨンオクも1938年生まれで、アナウンサーや声優としての経歴を経て女優としてもさまざまな作品に出演。近年では「イカゲーム」(Netflixにて配信中)に出演し話題を集めた。

『最後のピクニック』は9月12日(金)より公開
『最後のピクニック』は9月12日(金)より公開[c]2024 LOTTE ENTERTAINMENT & ROCKET FILM All Rights Reserved. 

「かなり前におふたりが共演された時には、キム・ヨンオクがおばあちゃん役で、ナ・ムニがその息子の妻役で20歳以上歳が離れている設定になっていたことがありました。世間ではそういうイメージがあるんだそうです」と、石津はこれまで何度も共演してきた両者のポジションの違いを言及。すると崔は「キム・ヨンオクは自分が小さい頃からずっと、おばあさんかお母さんか隣のおばさん役なんです。いわゆる“老け役”というんでしょうかね」と説明。

石津が例に挙げた作品を1996年に放送された「世界で一番美しい別れ」であることを言い当てた崔は、「その作品が30年近く経って『世界でもっとも美しい別れ』としてリメイクされた時、他の出演者たちはもちろん変わっているのに、おばあちゃん役は今回もキム・ヨンオクだったんです。ものすごい女優さんです」と驚きのエピソードを紹介。他にもキム・ヨンオクが1980年代にアニメ作品の声優を多数務めたことや、ナ・ムニが洋画吹替えで大物女優たちの声を担当してきたことなど、2大女優の長年にわたる輝かしい功績を讃えていた。


文/久保田 和馬


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