94歳の狂言師“人間国宝”野村万作が到達した芸の境地とは?野村萬斎、野村裕基が『六つの顔』の見どころを語る

94歳の狂言師“人間国宝”野村万作が到達した芸の境地とは?野村萬斎、野村裕基が『六つの顔』の見どころを語る

人間国宝の狂言師・野村万作を追ったドキュメンタリー映画『六つの顔』(公開中)。8月23日には本作の公開を記念して、シネスイッチ銀座にて公開記念舞台挨拶を実施。同作に出演する野村万作、野村萬斎、野村裕基と、犬童一心監督が登壇し、公開初日を迎えた喜びや、“リアル”人間国宝が長年向き合ってきた狂言への想い、94歳にしていまもなお舞台に立ち続ける理由などを語った。

【写真を見る】人間国宝の狂言師・野村万作に密着したドキュメンタリー映画『六つの顔』が公開
【写真を見る】人間国宝の狂言師・野村万作に密着したドキュメンタリー映画『六つの顔』が公開

650年以上にわたり受け継がれ、人々を魅了してきた「狂言」。その第一人者であり、芸歴90年を超える今もなお、現役で舞台に立ち続ける人間国宝の狂言師・野村万作。作中では、そんな野村万作の“ある特別な1日の公演”に寄り添い、万作が磨き上げてきた珠玉の狂言「川上」と人生の軌跡に迫る。監督は『ジョゼと虎と魚たち』(03)、『のぼうの城』(11)の犬童一心。アニメーションを『頭山』(02)の山村浩二、ナレーションをオダギリジョー、そして監修を野村万作と野村萬斎が務める本作は、豊かな映像表現で織りなす、至高のドキュメンタリー映画となっている。

無事に公開を迎えた現在の気持ちを聞かれた野村万作は、続々と寄せられる高評価のコメントを好意的に受け止めつつ、映画を公開することに意義を以下のように話す。「いろいろニュースが入ってきて、こういう感想を誰が述べられている…ということを聞くたびにうれしく思っています。もともと狂言をご存じの方もいらっしゃいますし、ご存じでない方もこちらの映画をご覧になられて、感動したとおっしゃってくださって。私とすると、600年の伝統を誇る狂言のなかでも、特にいいと感じている『川上』という作品を大勢の方に知っていただけた…というだけでも、この映画には意義があったのではないかと思っています」。

舞台挨拶に登壇した野村万作
舞台挨拶に登壇した野村万作

そんな本作を手掛けた犬童一心監督は、“狂言を映画として描く”うえで、野村万作の言葉を常に意識していたという。「制作に当たり、心掛けていたことはいくつかありますけど、いちばん意識したのは万作先生がおっしゃっていた“自分たちのやる狂言は美しくなければいけない。それがあってはじめて、そのあとにおもしろさがついてくる”という言葉ですね。それととにかく、万作先生のシルエット、佇まいをできるだけ美しく記録すること。これを心掛けました」。

舞台挨拶に登壇した犬童一心監督
舞台挨拶に登壇した犬童一心監督

犬童監督とは『のぼうの城』以来、久しぶりにタッグを組んだ野村萬斎は、父・万作が到達した芸の境地を見つめる犬童監督の視線こそ、本作の見どころであると話す。「犬童監督にはまさに、いまおっしゃられたアプローチで、非常にリスペクトを持って撮影に臨んでいただけたと思います。野村万作という非常に珍しい存在をですね、本当に美しく撮ってくださったのですが、妙に手練手管を尽くすのではなく、自然体でありのままの美しさを撮影されたところに犬童監督の映像作家としてのこだわりを感じました。世阿弥の言葉に“老いた木に桜が咲くさまこそが究極の美”というものがあるんですけど、父はまさにそうした芸の境地に到達していて。本作は、それをそっと眺めている犬童監督の視線から描かれているんですけど、狂言を扱う映画として、これは一つの新しい形なんじゃないかなと思っています」。

舞台挨拶に登壇した野村萬斎
舞台挨拶に登壇した野村萬斎

そうして最後に、94歳にしていまなお精力的に芸に取り組む祖父・万作について、率直な想いを聞かれた野村裕基は「気持ちとしては、師匠は常に僕と同い年くらいの感覚でいたんだろうな…と思います。なぜかといいますと、本当に普段から人に頼らないといいますか、自分のことは自分でする…という生活を、94歳になったいまでも続けていて。映画の中でも空港の長い通路を歩いて移動するシーンがありますが、ああいった場面でも人の手を借りず、自分で荷物を持って移動されて。日常生活からしてそうなので、当然、舞台の上でも妥協はいっさい許さない…という姿勢でして、僕自身も物心がついた時から常にお手本にさせてもらっています。公開に合わせて、もう一度本作を観直したのですが、自分が94歳になった時に師匠のように振る舞えるだろうか…と、改めて考えさせられました」と話し、イベントを締めくくった。

舞台挨拶に登壇した野村裕基
舞台挨拶に登壇した野村裕基


取材・文/ソムタム田井

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