「いい絵を買うな。名作を買え」!『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』“本物”の美術品を紹介する特別映像
ウェス・アンダーソン監督最新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』(9月19日公開)。本作より、セットに使用された“本物”の美術品を紹介する特別映像が解禁された。
今年3月には書籍「ウェス・アンダーソンの世界展 -The Museum of Wes Anderson-」が発売されるなど根強い人気を誇るアンダーソン。最新作は『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(21)にも出演したベニチオ・デル・トロを主演に迎え、ケイト・ウィンスレットの娘で俳優のミア・スレアプレトン、『バービー』(23)でアランを演じたマイケル・セラ、アカデミー賞ノミネート俳優のリズ・アーメッドらウェス組初参加のキャスト、そしてウェス作品の常連ともいえる、トム・ハンクス、スカーレット・ヨハンソン、ブライアン・クランストン、マチュー・アマルリック、ジェフリー・ライト、ルパート・フレンド、ホープ・デイヴィス、そして物語の重要なカギを握る人物にベネディクト・カンバーバッチと豪華キャストたちが競演する。
物語はデル・トロ演じるヨーロッパの富豪、ザ・ザ・コルダが娘で修道女のリーズル(スレアプレトン)を後継人に任命したところから始まる。画策していたビジネスの危機的状況を打開すべくヨーロッパを旅する間に、ザ・ザ・コルダ自身の暗殺計画など様々な事件に巻き込まれていくというクライム・ファミリー・コメディ。物語の後半では、カンバーバッチ演じるヌバルおじさんとザ・ザ・コルダの決死のバトルも繰り広げられるなど、一瞬たりとも見逃せない作品になっている。
このたび解禁となったのはザ・ザ・コルダの邸宅のいたるところに飾られている絵画や美術品を紹介する特別映像。劇中に登場するいくつもの名画は、本物を各地から集めているのだ。通常、映画を撮影する際、美術館やコレクションから本物の絵を持ちだすことはない。監督のアンダーソンも過去作ではオリジナルで美術品を作成したり、レプリカを使用してきているが、本作ではアンダーソンの強い希望で本物の美術品を集めることになった。アンダーソンは「今回は“収集家”であり“所有欲の強い”キャラクターが登場します。ザ・ザは物を所有することにこだわる人物。そして今回はアートとビジネスが入り混じった物語なので、本物を使ってみようと考えたのです」と話す。
まず登場するのは、ベルギーの画家であるルネ・マグリットの「赤道」。ベルリンの個人から借りたという。修復家や美術品専門の搬送チームなど万全の準備で設置、撮影が行われている。さらにフランスの印象派画家、ルノワールが手がけた幼い甥、エドモンの肖像画「青い服の子供(エドモン・ルノワール)」も登場する。アンダーソンは、この絵をリーズルのベッドの上に飾りたいと要望したとのこと。実業家としてビジネス第一で動くザ・ザの内面に潜むやさしさを示唆するだけでなく、物語が進むにつれ、現実や記憶を再構築するためのカギを示すサインにもなっている。つまりリーズルはザ・ザの“これから”を左右する重要な存在ということが表されているのだ。
ザ・ザ邸の大理石の壁に立てかけられていくつもの古典絵画や彫刻はハンブルクの美術館から借用。壁に立てかけられた美術品からは、物が常に出入りしていることが読み取れる。ザ・ザの莫大な資産と熱心な収集家であることが表現されている。
圧巻の作品群はザ・ザの人となりを表現するように配置された。どんな美術コレクションもそうであるように、ザ・ザの大きな願望だけでなく、不安までも映し出しているという。本物の放つオーラはキャスト、スタッフ全員に刺激とエネルギーをもたらした。アンダーソンは当初から、そのオーラが作品に良い作用をもたらすと信じていたという。「キャストにとっても本物が飾られているということは意味を持つと思いました。画面の中でもセットでも、本物だということを感じるはずです。レプリカとはやはりまったく違うオーラがある。作品の保護のために手袋をした係員が歩き回っているのも面白いと思いました」と語っている。
作中、ザ・ザが息子のひとりに語りかける「いい絵は買うな、本物の名作を買え」というセリフを裏付ける本物まみれのセット。スクリーンを通して本物の絵画に触れてみてはいかがだろうか。
文/スズキヒロシ