特殊部隊「デルタフォース」と無人攻撃機の連携作戦から体感する、映画『ランド・オブ・バッド』で描かれる現代の対テロ作戦の“リアル”

特殊部隊「デルタフォース」と無人攻撃機の連携作戦から体感する、映画『ランド・オブ・バッド』で描かれる現代の対テロ作戦の“リアル”

特殊部隊「デルタフォース」に無人戦闘機「MQ-9リーパー」…現代の戦場のリアルを描写

そして、もうひとつの本作の大きな見どころとなるのが、キニーが行動を共にする「デルタフォース」の活躍だ。キニーが随伴する特殊部隊デルタフォースは、機密性の高い対テロリスト作戦に従事する精鋭部隊。人質の救出や敵重要人物の捕獲や暗殺、拠点強襲などの少人数で短時間に任務を遂行する攻撃部隊となっている。これまでも、戦争アクション映画では『デルタフォース』(86)や『ブラックホーク・ダウン』(01)などの作品でその活躍の様子が描かれてきた。

映画でもたびたび題材になる、アメリカ陸軍の特殊部隊「デルタフォース」の活躍も見どころの一つ
映画でもたびたび題材になる、アメリカ陸軍の特殊部隊「デルタフォース」の活躍も見どころの一つ[c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.

本作では、日々変化している対テロ特殊部隊の装備や作戦遂行の様子がリアルに描かれている。キニーと共に作戦に参加するデルタフォースのメンバーは、シュガー曹長(マイロ・ヴィンティミリア)、エイベル軍曹(ルーク・ヘムズワース)、ビショップ軍曹(リッキー・ウィットル)の3人。一般的な軍隊と言えば、軍服や装備などは統一されているように思えるが、本作ではベテラン特殊部隊員の3人が、それぞれバラバラの装備や服装をしている。デルタフォースは、対テロ作戦のために一般人に偽装することも多いため、髪型や服装の自由度が高い。また、作戦行動にあたり、個人判断での装備のカスタマイズも認められており、本作に登場する3人も自身の使いやすい形で手を入れた銃を持っている。その装備の違いを理解するとキャラクターの立場が見えてくるような作りにもなっているのが、本作のミリタリー描写のこだわりポイントだと言えるだろう。

ほとんど実戦経験のないキニーの銃は、アメリカ軍の一般的な主力アサルトライフル「M4A1カービン」
ほとんど実戦経験のないキニーの銃は、アメリカ軍の一般的な主力アサルトライフル「M4A1カービン」[c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.

空軍所属でほとんど実戦経験のないキニーは、アメリカ軍の一般的な主力アサルトライフルである「M4A1カービン」を持っているが、ほぼプレーンな形でオプションパーツなどはほとんど付いていない。それに対して、ほかのメンバーはバラエティ豊かな銃を装備している。エイベル曹長は米軍制式採用のM16アサルトライフルの民間版である「AR-15」を使用。ロングバレルや倍率変更可能なタクティカルスコープなどを装着して、長い射程にも対応できる改良がなされている。実質的なチームの指揮官であるシュガー曹長はAR-15をオーストラリアのウェッジテール社がライセンス生産した「WT-15」を使用。ショートバレルを装着し、軽量化が図られているなど近距離での戦闘に対応したカスタムが特徴だ。ビショップ曹長はM4A1カービンをベースにしつつ、カスタマイズの幅を広げるべく開発されたヘッケラー&コッホ社の「HK416D10」を使用。こちらもショートバレルにレーザーサイトやダットサイトなどを取り付け、様々な状況に対応できるカスタムを施したものを装備。また、狙撃用として、アメリカ軍特殊部隊用に開発された精密狙撃銃である「バレットMARD」も持っており、狙撃任務に対応している。劇中ではこうした装備の詳細の説明はないが、銃の種類やカスタムからこれらの情報が読み取れるくらいマニアックな要素が詰め込まれているのだ。

ビショップ曹長が構えるのは、狙撃用としてアメリカ軍特殊部隊用に開発された精密狙撃銃「バレットMARD」
ビショップ曹長が構えるのは、狙撃用としてアメリカ軍特殊部隊用に開発された精密狙撃銃「バレットMARD」[c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.

ルーク・ヘムズワース演じるエイベル軍曹が持つのは、米軍制式採用のM16アサルトライフルの民間版「AR-15」
ルーク・ヘムズワース演じるエイベル軍曹が持つのは、米軍制式採用のM16アサルトライフルの民間版「AR-15」[c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.

こうした部隊の各自が連携するような装備を用い反政府組織の構成員たちとの銃撃戦は迫力のあるものとなっている。そして、絶対的に兵士の戦力で劣るデルタフォースを支援するのが、前述したドローンの「MQ-9リーパー」だ。デルタフォースの隊員たちが敵戦力を削ぐべく訓練によって高められた射撃精度で攻撃できるため練度は高いが、敵兵の援軍などへの対応能力には限界がある。そうした状況に対し、上空に待機するリーパーは敵の増援や車輌の接近を高高度から探知し地上の仲間に情報を共有。さらに高機能センサーを用いて収拾した情報とJTACによる現地からの指示によって、増援部隊や攻撃力の高い武装を積んだ車両、敵兵が多数潜む建物などに高精度な対地攻撃などを行うことで部隊活動を支援。ドローンという新たな兵器と衛星通信などを用いた最新技術を加えることで、高度に洗練された現代の戦場における特殊部隊の戦いを描いていく。

アメリカ空軍が運用する無人攻撃機「MQ-9 リーパー」。“リーパー”には、刈る者=死神の意味があるとか
アメリカ空軍が運用する無人攻撃機「MQ-9 リーパー」。“リーパー”には、刈る者=死神の意味があるとか[c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.

近年では、戦場においてドローンが投入され大きな戦果を挙げているというニュースを聞くことが多いが、では実際にどのように使用されているのかを知る機会は少ない。そんななかで、本作は対テロ戦争化していく現代の戦場の様子、そしてドローンがどのように利用され大きな戦力となっているかがより深く理解できる作品となっている。

世代も立場も異なる者が「生き残る」=「救助する」というひとつの想いで繋がっていく展開

そうした戦場としてのリアリティに加えて、ドラマ的側面で物語を引っ張っていくのが、前述したキニーとグリムという、戦場と空軍基地という場所は違えどもドローンを通して繋がる立場の異なる軍人同士のやり取りだ。分不相応とも思える特殊任務で過酷な戦場を体験し続けることになるキニーを信頼し、彼を助けるべく奮闘するグリム。顔も知らず、接点もないまま偶然同じ任務に就いた、世代も立場もまったく異なる者が「生き残る」=「救助する」というひとつの想いで繋がっていく展開は、緊張感あふれる戦場描写が続くなかでは希望であり、唯一気を抜くことができる瞬間となっている。

孤立無援となったキニーは、「ランド・オブ・バッド」=“最悪の土地”から脱出できるのか?
孤立無援となったキニーは、「ランド・オブ・バッド」=“最悪の土地”から脱出できるのか?[c] 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.

しかし、これだけの兵士として高い能力を持つデルタフォースも、現場における不運やふとしたミスなどから危機に陥るところから物語の方向は大きく変化していくことになる。物語の後半ではタイトルである「ランド・オブ・バッド」=“最悪の土地”という意味がわかる、より過酷な戦場でのサバイバルが描かれていくことになる。暴力によって行動を起こす者たちとの理解しあえない深い溝、一瞬の判断や“運”にも左右される状況。そうした、ヒリつくような緊張感や絶望感、それでも仲間を助け、生き残ろうとする想いが交錯する戦場のリアルが深く印象に残る作品となっている。『ランド・オブ・バッド』の戦闘シーンの緊張感と迫力、そしてリアリティをぜひ劇場で体感してほしい。


文/石井誠

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