竹野内豊、玉木宏、奥平大兼らが体現する命のドラマ…『雪風 YUKIKAZE』は中心となる3人の乗員が熱い
第二次世界大戦の終結から80年の節目を迎えた今年、戦時中から戦後まで、激動の時代を懸命に生き抜いた人々の想いを描く新たな映画が誕生した。終戦記念日である8月15日より公開された『雪風 YUKIKAZE』は、太平洋戦争中に実在した奇跡の駆逐艦「雪風」の乗員たちの勇姿を、知られざる史実を基にフィクションとして甦らせた感動作だ。
物語の中心となり、階級もタイプも異なる魅力的な3人の乗員を、竹野内豊、玉木宏、奥平大兼といった実力派俳優たちが熱演。彼らが織りなす関係性は、本作の大きな見どころの一つだ。戦争という壮大な事象を背景にしながら、一人一人のキャラクターの心情に深く共感できる人間ドラマになっている。
数多くの激戦をくぐり抜け、ほぼ無傷で終戦まで生き残った駆逐艦「雪風」
そもそも駆逐艦とは、敵艦隊への水雷襲撃、大型艦船の護衛、さらに兵員や物資の輸送、上陸支援、沈没艦船の乗員救助など、多岐にわたる任務をこなす“海のなんでも屋”の軍艦のこと。「大和」や「武蔵」などの戦艦に比べると、小型で軽量、一見地味だが、実際の海戦においてなくてはならない重要な存在である。物語の舞台となる雪風は、主力として海戦に送り込まれた甲型駆逐艦38隻のなかで、数多くの激戦に参加し、大きな戦果を上げつつも、ほぼ無傷で終戦まで生き残った唯一の艦だった。
“死に損なった人間”という思いを抱える雪風の新艦長、寺澤一利
その雪風の艦長、寺澤一利を演じるのが竹野内。雪風の初陣から約2年後に、新艦長として新たに着任した人物という設定で、様々な資料を基に生みだされたオリジナルキャラクターだ。開戦時からの艦長というわけでもなく、内部がうまくいっていない艦を立て直すために配属された人物というわけでもない。すでに数々の主要な戦いで活躍し、軍内で“幸運艦”と呼ばれていた同艦のチームにポンと入ってきた、いわば“新入り”というポジションである。
寺澤が登場して早々に、彼がかつての海軍兵学校の同期生たちと撮った一枚の写真をじっと見つめるシーンがある。どうやら、仲間のうちの何人かは戦死しているらしい。ここで寺澤がぽつりと口にする一言から、彼が心のなかで、大事な仲間が自分よりも早く死んでしまった悲しみ、自分だけが生き残っている事実に対して罪悪感を抱いていることがわかる。艦長としての職務を冷静に遂行しながらも、“自分は死に損なった人間”だという感覚を持った複雑な人物像は、艦全体の運命を握る艦長のキャラとしては新鮮で、人間らしさを感じさせる。
上司からの信頼は厚く、若手からも慕われる先任伍長、早瀬幸平
一方、全員で生きて帰ることを目指す、朗らかで生命力あふれる先任伍長、早瀬幸平役には、本作で竹野内と初共演を果たした玉木。これまでに『真夏のオリオン』(09)や『沈黙の艦隊』(23)で艦長を演じてきているが、頼れる兄貴として艦内の下士官、兵たちをまとめ上げる今回の先任伍長役は彼の個性にもハマっている。長年、雪風に乗り続けてきた叩き上げで、誰よりも艦艇のことを知っているベテランの早瀬は、時にはトップである艦長に意見することもある熱血漢。上司からの信頼も厚く、若手からも慕われる彼の人柄こそが、雪風の乗員たちの思いやりに満ちたアットホームな空気を作ってきたといえる。
かつて早瀬に命を救われた若き水雷員、井上壮太
そして、そんな早瀬に命を救われた乗員の一人、若き水雷員の井上壮太を瑞々しく演じたのが、戦争映画に出演するのは今回が初めてとなる奥平。1942年6月のミッドウェー海戦で、沈没した巡洋艦から海に投げだされ、雪風に救助された井上は、危険を顧みず、最後まで決して自分を見捨てなかった早瀬に一生の恩義を感じている人物。1943年10月、艦長の寺澤と同じタイミングで雪風に配属となり、敬愛する早瀬のもとで働けることになった喜びを露わにする様子に心が和む。戦中から戦後まで続く物語の語り部としての役割も担う井上は、観客が素直に感情移入できるキャラクターとなっている。