『ランド・オブ・バッド』監督が明かす、臨場感がハンパない戦争映画に宮崎駿監督作から学んで取り入れたものとは?
影響を受けたのは『プレデター』『シン・レッド・ライン』…さらに宮崎駿監督作からも?
キニー役のリアム・ヘムズワースも、グリム役のラッセル・クロウもオーストラリア出身の俳優。その意味でロケ地がオーストラリアになったことがうまく機能したようだ。
「ラッセルとは以前からの知り合いで、今回のオファーをしたところ、脚本を送って2日後に快諾の返事をもらいました。その瞬間、本作がうまくいくことを確信しましたね。撮影時期も、たまたま彼がオーストラリアにいたので実にスムーズでした。ほかのキャストに関してはスケジュールの面で難航しつつも、なんとか集めることができました」。
リアム・ヘムズワースは、クロウが『ポーカー・フェイス/裏切りのカード』(22)で共演し、本作に勧めたという。さらに本作にはリアムの兄(長男)であるルーク・ヘムズワースもデルタフォースの軍曹役で出演。兄弟の共演が実現した。もう一人の兄(次男)、クリス・ヘムズワースも出演していれば“完璧”だったが、それが叶わなかったことをユーバンク監督は残念そうに振り返る。
「正直に告白すると、クリスにカメオ出演を頼もうとしたのです。捕らわれたCIA工作員の役を演じてほしかったのですが、残念ながら彼はオーストラリアにいませんでした。確かにギャラは高そうですが(笑)、タイミングが合えば兄弟のために出演してくれたと思います。次回はぜひ実現させましょう」。
デルタフォースに加わったキニーが、島のジャングルで孤立無援になる。この状況を、ユーバンク監督は『ダイ・ハード』(88)などをイメージして作り上げていったと告白していた。そのほかにも参考にした作品はあったのだろうか。
「さりげなくユーモアを入れるあたりは、『プレデター』の1作目からヒントを得ました。何度か観ていたドキュメンタリーの『レストレポ前哨基地 PART.1』は、撮影前にリアムと一緒に観て、参考にしてもらいました。戦場の兵士もただの人間であることがわかる作品で、兵士の内面から戦闘地域での真実を伝えているのです。人間と戦争を対比させるために、自然の風景を使ったアプローチは『シン・レッド・ライン』からの影響ですね。そして黒澤明監督の作品は『七人の侍』に代表されるように、危機的な状況でも登場人物を人間らしく見せ、ユーモアも込められ、私の映画作りのスタイルに根付いています。宮崎駿監督の“間(ま)”も理想的です(日本語で「ま」と話す)。アクションで盛り上げるためには、息抜きが必要であると宮崎作品から学びました」。
『ランド・オブ・バッド』の高評価の理由について「近年は、このタイプのアクション映画がシリアス化し、テーマ性が強くなっているなか、シンプルに観客を興奮させたから」と分析するユーバンク監督。ネタバレなので詳しくは書けないが、ラストシーンはクロウのアイデアだそうで、そのおかげで映画を観たあとの印象がいい方向に変わったと、ユーバンク監督はクロウに感謝する。最後に次回作について聞いてみた。
「『ランド・オブ・バッド』の成功で、ソニー・ピクチャーズから誘いを受け、大規模なアクション映画に取り組んでいます。まだ詳細は明かせませんが、かなり刺激的でエキサイティングな作品になるはずです。その次の『ザ・ラスト・ドルイド(原題)』では、ラッセル・クロウがローマ人と戦うケルト人の英雄を演じます。おもしろそうでしょう?そんな感じで、いまは大忙しの毎日ですね(笑)」。
待機作を聞く限り、ウィリアム・ユーバンク監督が一流のアクション映画への道を突き進みそうな予感がする。その真価を確認する意味でも、『ランド・オブ・バッド』は必見の一作だ。
取材・文/斉藤博昭
※宮崎駿の「崎」は「たつさき」が正式表記