コーエン兄弟ら有名監督も通い詰めた!NYのシネフィルを唸らせた伝説のレンタルショップ「キムズビデオ」って知ってる?
動画配信サービス戦国時代となって久しい昨今では、グッと見かけなくなってしまったレンタルビデオ店。お世話になった往年の映画ファンならご存じのことと思われるが、レンタルショップといえば、まったく知らない作品を“ジャケ借り”するなど、配信サービスの便利さと引き換えに失った“思わぬ作品との出会い”の場でもあった。
大手チェーン店だけでなく、個人経営によるユニークな店も存在したレンタルショップのなかでも、世界的な個性派と知られた「Kim's Video」をご存知だろうか?かつて米ニューヨークのマンハッタンに店を構え、ドキュメンタリー映画『キムズビデオ』(公開中)が作られるほど熱狂的ファンを抱えるこのビデオショップがどんな店だったのか、その逸話をいくつか紹介していきたい。
ミステリアスな韓国人が経営するKim's Video
「Kim's Video」という店名が示すように、経営者はキム・ヨンマンという韓国人。若くして渡米したキムさんがクリーニング業のかたわら、ニューヨークのイーストビレッジで1987年にスタートさせたレンタルショップだ。
このキムさん、タランティーノ監督と仲良しと噂されたり、多くの元店員が「話したことがない」と語ったりと、やたら謎めいた存在。際どいアートフィルムを自主制作するほどのシネフィルであり、店でも外国映画やアートフィルムといったレアな映像作品ばかりを取り扱い、そのコレクション数は5万5000本にも及んだという。
ゴダールも激怒!多数の海賊版を扱いFBIの捜査の手が…
そんなコレクションには世界中の映画祭や各国の大使館など独自のルートで仕入れ、それを勝手にダビングしたような“海賊版”も多数。
当時ほとんどソフト化されていなかったという激レア作品『ゴダールの映画史』(98)を取り扱った際には、ジャン=リュック・ゴダール監督本人からレンタルを差し止めるよう通告も。そのグレーすぎる商売に、ついにはFBIも動き、店でガサ入れが行われたこともあったというから驚きだ。
コーエン兄弟ら映画界のビッグネームとの関連も
その類を見ないような品揃えにより、シネフィルに愛され、25万人もの会員を抱えていたという「Kim's Video」。そのなかには有名監督もおり、『ファーゴ』(96)、『ノーカントリー』(07)などで知られるジョエル&イーサンのコーエン兄弟は600ドルの延滞金を滞納しているとか。
また『ロボット・ドリームズ』(23)では、ドッグとロボットが自宅で『オズの魔法使い』(39)を鑑賞するシーンがあり、その際に「Kim's Video」のケースが映しだされている。手掛けたパブロ・ベルヘル監督もニューヨークに住んでいたころに毎日のように通っていたそうだ。
さらに店員にも映画関係者は多く、「ジョーカー」シリーズのトッド・フィリップスをはじめ、『プーと大人になった僕』(18)の脚本を手掛けたアレックス・ロス・ペリー、『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』(23)のショーン・プライス・ウィリアムズといった才能たちが、このビデオショップから羽ばたいていった。