チーフドクター喜多見のもと、いかにしてチームは一つになったのか?『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』に至る「TOKYO MER」の軌跡
最新のオペ室搭載の特殊車両=ERカーで事故や災害の現場にいち早く駆けつける、スペシャル医療チームの活躍を描いた人気ドラマの映画化第2弾となる劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』が大ヒット公開中だ。沖縄、鹿児島の離島医療に従事する新チーム「南海MER」が、火山の噴火で未曾有の大災害に見舞われた鹿児島県諏訪之瀬島の島民79人の救出に向かう姿に迫る、シリーズ最大のスペクタクル巨編となっている。本稿では最新作に至る「TOKYO MER」のおもしろさと魅力を改めて徹底解析!どうしてこんなに熱くなってしまうのか?なぜ、そこまで前のめりになりながら観てしまうのか?その理由を探っていきたい。
寄せ集め集団から始まった「TOKYO MER」
「TOKYO MER(モバイル・エマージェンシー・ルーム)」は東京都知事、赤塚梓(石田ゆり子)の肝入りで誕生した救命救急医療チームで、初期メンバーはチーフドクターの喜多見幸太(鈴木亮平)をはじめとした7人。冒頭で“スペシャル医療チーム”と書いたものの、当初は看護師の蔵前夏梅(菜々緒)とベトナム人看護師ホアン・ラン・ミン(フォンチー)、麻酔科医の冬木治朗(小手伸也)、臨床工学技士の徳丸元一(佐野勇斗)、厚生労働省の官僚でもある医系技官の音羽尚(賀来賢人)、研修医の弦巻比奈(中条あやみ)といった、個々に病院内で別の仕事を持つ者たちの寄せ集め集団だった。
しかも、腕は確かだが、命の危険を顧みず、無謀とも思える行動を取る喜多見とほかのメンバーの意思疎通がちぐはぐで、医療の実績がなく、不安をいっぱい抱えた弦巻などは「なんで私がMERに?こんなところに来たくなかった」と口に出して言うほどだった。
凸凹集団が災害現場で奔走する姿にハラハラドキドキ!
そんな凸凹集団が困難を極める災害現場で医療にあたるところがこのシリーズの最大の見どころだが、その医療現場のシチュエーションが毎回ガラリと変わり、MERの実力を試すように難易度をどんどん上げていくからハラハラドキドキのレベルもぐんぐんアップ!
バス事故現場での緊急オペに始まり(第1話)、夏祭り会場や工場での爆発に巻き込まれた重篤患者の治療に奔走(第2話、第3話)。ビルに立て籠もった凶悪犯と向き合いながら人質に取られた重病の少女を救う危険なミッションにも挑み(第3話)、トンネル崩落事故(第4話)やエレベーターに閉じ込められて煙で酸欠状態になった妊婦や大物政治家の救命(第5話)にもあたっていく。
さらには、治外法権になる他国の大使館内で起きた二酸化炭素中毒事故の被害者たちを救うために大きな賭けに出たり(第9話)、爆破テロ犯のエリオット・椿(城田優)との危険な駆け引きをしながら爆発の被害者たちの治療にも懸命に従事(第10話、第11話)。「待っているだけでは救えない命がある」というMERの精神を行動で見せるそんなメンバーの姿に息をのみ、一喜一憂した人も決して少なくないはずだ。
様々な過酷な現場を乗り越えてチームが一つに
だが、「TOKYO MER」のおもしろさをを作り上げているのはもちろん、そうしたリアルな医療シーンが連続するからだけではない。難易度の高い一刻を争う医療現場に全身全霊で向き合ううちに、メンバー同士の絆と信頼関係がどんどん深まり、命となかなか向き合うことのできなかった弦巻のMERと喜多見に対する眼差しにも大きな変化が。当初は衝突を繰り返していた千住幹生隊長(要潤)率いる東京消防庁即応対処部隊との連携も取れるようになり、パイプが太くなっていくあたりも見逃せなかった。
政治的駆け引き、喜多見と音羽の関係性も見どころに
MERの救命活動と並行して描かれる政治的な駆け引きも物語をより重厚でドラマチックなものに。厚生労働大臣、白金眞理子(渡辺真起子)が危険な現場に飛び込み、問題を次々と起こす喜多見をターゲットにMERの解体を目論見、政敵の赤塚都知事と激しい火花を散らす。彼女の命令で音羽がMERに潜り込み、チーム解体に利用できる材料を見つけるために暗躍しつつも、最初は自らも否定的だったMERの存在意義や喜多見の行動を見つめ直し、少しずつ心を揺らし始めるところも大きなポイントになっていった。
そして、音羽が見つけだした喜多見の空白の過去の秘密をめぐるドラマシリーズのクライマックスでは、出動した現場で「死者を一人も出さないこと」が使命のMERを襲う、あり得ない最悪なサプライズを用意。命の重さと緊急救命医療の必要性を改めて問い直す周到な展開で、多くの人の心を鷲掴みにした。
そこは、「キングダム」シリーズや『ゴールデンカムイ』(24)、『グランメゾン・パリ』(24)など、数々の感動作の脚本を手掛けてきた黒岩勉の抜かりのなさ。新たな局面を迎えるドラマチックな展開とエンタメならではのワクワクするエピソードを用意し、さらに喜多見役の鈴木亮平や音羽に扮した賀来賢人らがヒリヒリした熱い芝居を爆発させるのだから、それを目撃する私たちの心が揺れ動かないわけがない。しかも毎回、東京都危機管理対策室のメンバーである清川標(工藤美桜)に「(災害現場の)死者はゼロです」と報告させ、それを聞いて密かにガッツポーズをする赤塚のかわいらしい様子もくまなく挿入。緊張とドキドキで息が抜けないシリーズに、ほっこりした空気ももたらしていた。