ダークでメランコリックな場面写真公開!『テレビの中に入りたい』新鋭監督ジェーン・シェーンブルンの“創作の源”とは

ダークでメランコリックな場面写真公開!『テレビの中に入りたい』新鋭監督ジェーン・シェーンブルンの“創作の源”とは

第74回ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式出品のA24製作映画『テレビの中に入りたい』が9月26日(金)より公開となる。本作よりジェーン・シェーンブルン監督のコメントと作品の世界観を感じられる場面写真が到着した。

【写真を見る】青い風船を持ち夜のグラウンドを軽快に歩く“今週のモンスター”
【写真を見る】青い風船を持ち夜のグラウンドを軽快に歩く“今週のモンスター”[c] 2023 PINK OPAQUE RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

数々の映画祭で上映されると「唯一無二の傑作」、「変幻自在の不穏さ」、「型破りな映画」、「この作品を表すのに“リンチ的”という言葉を使いたい」と絶賛され、公開から1周年記念で新たなグッズが発売されるなど、続々と“中毒者”を生みだし続けている本作。1990年代のアメリカ郊外を舞台に自分のアイデンティティにもがく若者たちの“自分探し”メランコリック・スリラーだ。郊外での日々をただやり過ごしているティーンエージャーのオーウェン(ジャスティス・スミス)。彼にとっては、謎めいた深夜のテレビ番組「ピンク・オペーク」が生きづらい現実世界を忘れさせてくれる唯一の居場所だった。同じくこの番組に夢中になっていたマディ(ジャック・ヘヴン)と共に、2人はしだいに番組の登場人物と自分たちを重ねるようになっていく。

2021年に発表した『We’re All Going to the World’s Fair(原題)』に続き、 新進気鋭監督として注目を浴びるシェーンブルンが「スクリーン3部作」と呼ぶ連作の2作目にあたる本作。子どものころ、夜眠れなくなるが観ずにはいられなかったテレビ番組についての物語であり、綿密に作られたジャンル映画。鮮やかで彩度の高い35ミリとぼやけたVHSの映像が1990年代を完璧に再現し、ノスタルジーに浸る文化や、作品に自分を重ねることの危うさを極めて刺激的に掘り下げている。全編を通して多層的な物語はエキサイティングで楽しいが、アイデンティティや記憶の不確かさ、自分自身であることの意味を受け入れることについて、豊かで深い独特の瞑想を提供する。

また、トランス女性でノンバイナリーであることを公表しているシェーンブルン監督は、クィア映画の果敢な推進者でもある。それと同時に社会的に見せている自分と“本当の自分”のズレという本作にこめられた主題は、誰もが少なからず持つ普遍的なジレンマの形だ。シェーンブルンは多感な思春期の頃に出会ったカルチャーやフィクションを、自分自身や自分の心を見つける場所として設定し、魂の“牢獄”からの脱出というテーマをロマンティックな美しさをたたえて描きだしている。

本作誕生の経緯、アイディアの源についてシェーンブルン監督は、「若かったころに観ていたテレビ番組にどれほど捕らわれているかというアイデアは、何年も前から頭の中にありました。いまになって考えると、私は画面の中に逃げて、土曜の夜のニコロデオンや火曜の夜の『バフィー~恋する十字架~』をひたすら待っていたんだと思います。ファンの世界が私にとって防衛機制だったんです。フィクションを通して自分を守ろうとするのをやめて、私の映画に出てくるキャラクターたちのように画面の向こう側へ行く。それには最も深く核心的な部分で現実を再評価することが必要です。この映画はそんな気づきから生まれました」と語る。1990年代にアメリカで子供時代を過ごした人たちなら共通に持つ、ニコロデオンの番組を観て何日もひきずる、というような経験。これはきっと日本の子どもたちにも同じようなことがあったはずだ。

食い入るように「ピンク・オペーク」を観るマディと、横から神妙な面持ちで見つめるオーウェン
食い入るように「ピンク・オペーク」を観るマディと、横から神妙な面持ちで見つめるオーウェン[c] 2023 PINK OPAQUE RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

さらに「隠していた本当の自分を心の中に戻し、見なかったフリをして半分死んだような人生を続けるか、未知と対峙するか。それは完全な社会的死を意味するのも同然で、本質的に自分が知る現実の終わりでもあります。本作のジャンルの要素と中心的メタファーは、語りたいという私の願望から生まれました。そしてほかの多くのトランスジェンダーたちが、本当の自分を否定される世界の中で自分らしくいる方法を模索する経験をしてきたと思います」と明かす。

シェーンブルン監督が「子どもやティーンエージャーにはちょっと怖すぎるかもしれませんが、だからこそみんな好きなんです。子どものころ、少し夜ふかしして観るような、すごくショッキングだったり一生のトラウマになったりしそうな番組」と語る「ピンク・オペーク」は、一心同体のガールズヒーロー、イザベルとタラの2人が、邪悪な月の男“ミスター・憂鬱(メランコリー)”の遣わす怪物たちと戦いを繰り広げる物語。ダークかつポップな世界観で“憂鬱”を蹴飛ばしてくれるこの番組にオーウェンとマディは夢中になっていく。

エピソードのタイトルやキャラクターのイラストがピンク色で描かれたワンシーン
エピソードのタイトルやキャラクターのイラストがピンク色で描かれたワンシーン[c] 2023 PINK OPAQUE RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

解禁された写真には、そのイザベルとタラが手をつなぎ頭をつけながらなにかの儀式のようなポーズをとり、首元にピンクの同じマークが怪しく光り輝く神秘的な劇中カットや、青い風船を持ち夜のグラウンドを軽快に歩く「ピンク・オペーク」に登場する怪しげなピエロのような“今週のモンスター”、また初めてマディの部屋で「ピンク・オペーク」を目にした時の幼少期のオーウェンの衝撃的な表情を捉えたカットや、ティーンエイジャーになり同じ部屋で食い入るように「ピンク・オペーク」を観るマディを、横から神妙な面持ちで見つめるオーウェンの姿、また憂鬱に学校の廊下を歩くオーウェンの後ろ姿をバックにエピソードのタイトルやキャラクターのイラストがピンク色でビビッドに描かれているシーン、さらにはオーウェンとマディが入りたいと願うテレビが火で燃え盛る印象的なカットなど、本作が持つダークでビビットな世界観が随所にちりばめられており、中毒者続出のオリジナリティあふれる本作にさらなる期待が高まる場面写真となっている。


せつなくも幻想的なメランコリック・スリラーA24最新作『テレビの中に入りたい』。マーティン・スコセッシ監督の“観てほしい87本の映画”の1本にも選出された本作を、ぜひ劇場で味わってほしい。

文/サンクレイオ翼

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