犬童一心監督が共感する『星つなぎのエリオ』の“孤独”と“つながり”「僕も空を見上げるのが大好きだった」
公開から30年を迎えた『トイ・ストーリー』(95)をはじめ、『リメンバー・ミー』(18)など心温まるメッセージで観客の心を打つ、ディズニー&ピクサーの最新作『星つなぎのエリオ』が8月1日(金)に公開される。
本作は、「この広い世界のどこかに、“本当の居場所”があるはず」と信じてきたひとりぼっちの少年・エリオが、銀河を越える壮大な冒険と、運命を変える出会いを通して成長していく感動の物語。宇宙が大好きなエリオは、自分を理解してくれていた両親を亡くし、深い寂しさを抱えていた。そんなある日、星々への強い願いが届き、彼は星の代表たちが集う夢のような場所“コミュニバース”に招かれる。そこで出会ったのは、自分と同じように孤独を抱えるエイリアンの少年・グロードン。心を通わせていく2人の前に、やがて星々の世界を揺るがす大きな脅威が迫っていく…。
MOVIE WALKER PRESSは、同じくディズニー&ピクサー映画『インサイド・ヘッド2』(24)公開の折に敢行したインタビューで、同作を「自分の思春期を思い出させる映画だった」と語った犬童一心監督を再度迎え、『星つなぎのエリオ』の感想を伺う機会を得た。『ジョゼと虎と魚たち』(03)や『グーグーだって猫である』(08)など、繊細な心の機微を描く作品で知られる犬童監督が、自身の少年時代を重ね合わせながら、エリオの物語に込められたメッセージへの共鳴について語ってくれた。
「ディズニー&ピクサーのアニメーションは、自分の子ども時代を思い出させてくれる作品が多い」
――今回の『星つなぎのエリオ』はいかがだったでしょうか。
「最近のディズニー&ピクサーのアニメーションはなぜか、自分の子ども時代を思い出させてくれる作品が多い。『エリオ』も同様で、自分の11歳くらいのころを思い出してしまいました。
本作の本来のテーマは『君はひとりじゃない』『そのままの自分でいい』だと思うのですが、僕はまず、それとは違うところで共感してしまった。“死”についてです。この映画はエリオが両親の死を経験したというところから始まります。映画やコミックなどでは普通に描かれているから“死”のことは知っているんだけど、両親を失うことによって、それをもっともっと自分の身に迫ったものとして意識するようになった。ものすごくリアルな死と対面している子どもの話としてスタートしているんです」。
――犬童監督も同じくらいの年齢の時にリアルな“死”を経験したんですか?
「実際にそういう出来事はなかったんですが、エリオと同じくらいの歳のある夜、突然、“死”を感じたんです。いつもと同じように寝ているにもかかわらず『ああ、人って死ぬんだ』って。それまで漠然とは知っていたものの、周りの人たちが死んで行き、僕もいつかは死ぬというところに真実はある。それに直面したような感じだった。その時、僕がやったのは、自分が死んでしまったら会えなくなるだろう人たちを順番に挙げていくこと。両親、弟、友達…彼らもいつかは死ぬんだということを同時に考えちゃって、その夜は1人で大泣きしましたね。だから僕はこの映画、その初めてのリアルな“死”を、エリオが乗り越えようとする物語なんだと感じたんです」
――両親の死によって、彼は大きな孤独を抱えるようになり、それを癒すため、解消するために宇宙へと目を向けます。広大な宇宙には、僕をわかってくれる友人がいるんじゃないかと思い始めるのですが、そういう気持ちはいかがでしょう?
「地球には自分の居場所はない。だから宇宙に目を向けた少年の話ですが、エリオは居場所を探しているだけではなく『ここではないどこか』に行ってみたいんだと思いましたね。なぜって、僕もまさにそうだったから。子ども時代の行動半径は自転車で行ける距離なんです。電車を利用したとしても、僕の場合は新宿が限界、伊勢丹までしか行けないんです。
もちろん、世界にはアメリカがあり、アフリカがあるとはわかっているんですが、伊勢丹の向こうには世界はなく大きな滝のように水が落ちているという感じがしてしまう。だから僕も、この世界とは違う世界がどこかにあるはずだ、そこに行ってみたいという気持ちがつのっていくんです。それが浜辺で円陣を描いて宇宙とコンタクトを取ろうと夜空を見上げているエリオの気持ちと重なる部分があった。あの円陣は、エリオが創ったエリオだけの世界でしょ?僕にとってはそれが、まだ世田谷が原っぱだらけだったころの夏、生い茂った夏草を抜いて作った自分だけの空間。僕はそこから空を見上げるのが大好きだった。伊勢丹までしか世界のなかった僕の、ほかの場所とつながりたいという気持ちを、その原っぱに詰め込んだんだと思います」。